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『マクベス』:風格と没入が両立する古典の傑作。

シェイクスピア『マクベス』

少し前に『声に出して読みたい日本語』なんて本が流行りましたが、新作であれ古典であれ、そして海外文学でも相通ずるものがあるんだな。
この『マクベス』(木下順二訳/岩波文庫版)は、名セリフが至るところにあって、役者はさぞ気持ちいいことでしょう。

あらすじ

17世紀のスコットランド。勇猛な武将マクベスは魔女たちにそそのかされ、忠誠を誓っていた主君のダンカン王を暗殺する。
王座に就いたマクベスだが、悪夢に苛まれた末に殺されてしまう。

なぜ手にしたのか? 読後感は?

これまで自分が読んできた小説は現代の物語、大衆文学がほとんどでしたが、今年からはそれらと並行して古典や純文学にきちんと触れていこうと。
そんな心境の変化があって手に取ってみました。
なんといっても四大悲劇のうちの一作ですし。

『マクベス』を読んで感じたのは、

人は変節する

ということ。
これは善人悪人とか老若男女とか、全く関係ない。
何かがきっかけで、それまでの思想信条がコロッと変わることがある。

魔女から「やがて王になるお人よのう!」と言われ、徐々にその気になり、ついに忠誠を誓っていたダンカン王を殺してしまう。
その行いによって王になったにもかかわらず、猜疑心の塊となり、地位を守るために友人や周辺の武将たちを手にかける。

ビジネスの世界での「変節」は、ときに人としての成長をとらえて言うもので、良い意味として使われますが、個人的にこの言葉は皮肉を込めて使います。
マクベスの変節は裏切りに端を発するも、自らの行動と、自身まだ残っていた良心とがバグを起こし、精神に異常をきたしていく。

因果応報とは仏教語にかぎった話でもない。
何かを得れば何かを失うトレードオフの寓話でもあるな、と。

読んで得たこと

巻末にある底本、訳者・木下順二の『「マクベス」を読む』は必読

詳細な解説というか副読本です。

名セリフの連発に惚れ惚れ

何かで使いたくなる(かと言って使用する機会はないけど)こと請け合いで、威風堂々、迫力があります。

セリフが長いので、ほんの一部の一文を抜き取ると

  • 「何たる良き知らせ」(戦勝の一報にダンカン王が呟く)
  • 「人生はただ影法師の歩みだ」(マクベス夫人が亡くなった後のマクベスの独白)
  • 「その気持ちを砥石に、剣を研ぐのだ。嘆きを怒りに変えるのだ。心を鈍らせるな。掻き立てるのだぞ」(ダンカン王の息子マルカムが、妻子をマクベスに殺されたマクダフを励ます)

暗鬱な物語ながら決してそれだけではないのは、格調高い言葉の密度ゆえ、とも言えましょう。

まとめ

シェイクスピア作品は翻訳劇として観たりしているし、黒澤明が脚本のベースにしたりしておなじみですが。
きちんと戯曲で読んだことはないので、そちらを漁ってみました。

実は、こちらに夢中になりすぎて朝の通勤時にうっかり電車をひと駅乗り越す羽目に。
久しぶりです。
ミステリーではなく古典の名作でしでかすとは。

没入するのに時代やジャンルなどは関係ないね。
力のある作品にはそれだけ惹きつけるものがあるのです。

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hiroki「酒と共感の日々」

hiroki

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