若い時分からだいぶ経って読み直してみても、コメントに困る小説であることに変わらない。
いやむしろこれほど内面や自我を、小説という形とはいえ告白されても。
主人公の葉蔵は当然設定を変えているものの、作者・太宰治の擬態であることは明らかで、ゆえに自己否定と承認欲求のせめぎ合いに延々と付き合わされるのには困惑してしまう。
それでも一気に読まされてしまう時点で太宰の術中に落ちているのだけど。
『人間失格』(新潮文庫、1948年、筑摩書房初版)は、完結した小説としては太宰の生涯最後の作品です。
あまりにも有名な「第一の手記」の冒頭「恥の多い生涯を送って来ました。」は、太宰の人となりを語る代名詞であり形容詞でしょう。
不自然な笑みを作って無理やり陽キャを演じた少年時代から、モテモテの青年期を迎えても葛藤だらけの内面。
地下運動の本来の目的よりもその雰囲気が自分に合った学生時代。
心中に失敗して取り調べを受けた際、検事に小芝居を見破られたしくじり。
女遊びを友人の堀木に「これ以上は世間が許さない」とからかい半分に咎められたことを、内心「世間というのは、君じゃないか」と毒づく。
痛々しくてこちらが嫌になるくらいですが、嫌になるのは自分を投影している点も多分にあるから。たとえば、
「いっさいの附き合いは、ただ苦痛を覚えるばかりで、その苦痛をもみほぐそうとして懸命にお道化を演じて、かえって、へとへとになり、」
なんてのはもう、わかりみが深すぎる。
ここまで自分自身を掘り下げることはないがゆえに、それを小説でチクチク照射されると居心地が悪い。
だからコメントに困るとごまかしてしまうのだけど。
読み手にとってこの小説は何歳くらいが読みごろなんだろうね。
若いときに読んでも痛さしか感じないし、ワシのような50過ぎでも困惑するし。
太宰が亡くなったあたりに読んでみると同化気分が味わえるのかな。
太宰はいろんな作品があるけど、個人的にはトボけた明るみのあるほうが好きだなぁ。
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