東京・目黒出身の現代美術家・青山悟さんの個展『刺繍少年フォーエバー』鑑賞(~2024年6月9日/目黒区美術館)。
美術には興味があっても、広義でその1ジャンル刺繍といえる刺繍には関心がない。そんな自分ですが、これは面白かった。
青山さん自体の刺繍テクニックもさることながら、技術の発展によりやがて消えていくものへのメッセージ性がある作品に魅了されました。
特に印象に残った作品
『The Lonely Labourer』
アーツ・アンド・クラフツ運動を主導したデザイナー、ウィリアム・モリスの手書き文字を、コンピュータミシンが自動制で縫う様を映した映像と刺繍作品。
映像からコンピュータミシンの性能に瞠目しますが、作品はそれをアピールするものではありません。
機械の進歩(労働者の代替)が、労働をより過酷にすると考えたモリスのメッセージを、コンピュータミシンに刺繍させるという皮肉。
青山さんは作品を工業用ミシンで制作するのは、「この道具が産業革命以前の手作業の職工から職を奪った、衣類等の大量生産のための道具であるため」というキャプションに、青山さんの徹底した姿勢を感じさせられました。
現代人の労働はAIに奪われると叫ばれていますが、工業用ミシンもコンピュータミシンに代替されていくのでしょう。
『About Painting』
名画のいくつかを刺繍化し、二次元マップに。評価チャートの横軸に「Personal – Social(個人的一社会的)」、縦軸に「Radical- Conservative (急進的一保守的)」を配列し、作品それぞれの脇に青山さんの作品解説が載っています。
自筆の文章が味わい深いことよ。青山さんは作品に寄せるユーモラスな視点は適当な私見と補助線を引いていますが、謙遜とはいえ何を仰いますか。
プロのアーティストによる教科書的でない視点こそ最も知りたいことなのですから。
新作群 消えゆくものたち
今回の展示作品の中で、個人的にはこれらの作品が最も鮮烈でした。
青山さんが近年制作のテーマとしているのが「消えゆくものたち」だそう。
新聞、雑誌、書籍などの紙媒体、紙幣や切符など、いずれも徐々にネットの普及やキャッシュレス化によってなくなりつつあります。
ノスタルジーに生きる身としては、刺繍の緻密さ・愛らしさとともに、悲哀が去来しました。
青山さんは煙草の吸殻まで再現しており、つい最近まで目にしていたものの移り変わりの速さ、はかなさに口数少なく美術館を後にしました。
まとめ
風刺や皮肉、問題提起さまざまな暗喩に満ちた青山さんの作品。
「刺繍少年」という本展のサブタイトルには、ジェンダーや年齢差別の問題への暗示も込めているとか。
作品の緻密さだけでなく、問題提起や着想の素晴らしさに舌を巻く展覧会です。
刺繍というものに目を向けるきっかけともなりました。