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『談志が死んだ』に見た天才の闇、師弟の痛切な愛憎。

立川談四楼さん「談志が死んだ」

立川談志さんが亡くなって、もう7年も経つんですね。それはさておき、どうにも談志という人は好きになれない。無名のおまえに好かれなくてけっこうという突っ込みはなしで。

不世出、破天荒、天才。大げさなくらいの誉め言葉ですが、この人を形容する言葉としてどれも当たっているのでしょう。ワンマン暴君によって周りが振り回されるのは、どの世界にも同じこと。談志さんの場合は真に天才であるから、なお始末に負えない。立川談四楼さんの『談志が死んだ』を(新潮文庫)読んで、そう思いました。

著者・談四楼さんは落語立川流の第一期真打。望んで栄えある第一期となったわけではありません。1983年の落語協会真打昇進試験に談四楼さん、小談志さんが落とされたことに談志師匠が腹を立て、協会を飛び出して「立川流落語会」を創設したから。談四楼さんはつまりその渦中の人なわけです。

本は長編小説の体裁をとっていますが、事実上のノンフィクションでしょう。「談志死去」直後の衝撃の余波に始まり、談四楼が高校卒業後18歳で談志に入門してから亡くなるまでの、師弟のやり取り、周囲(談志の弟子、関係者)の動きを「再現」しています。

談四楼さんは、20作以上の著作を持つ小説家で随筆家でもあります。談志が山口瞳や梶山季之といった作家たちと親交があったことが影響し、前座時代に師匠のカバン持ちをしていて出会った作家の作品を読み、著者としての才能が開花したという人です。

ところがその才能がアダになります。談四楼さんの書いた弟弟子・立川談笑さんの『赤めだか』の書評記事が、なぜか談志の逆鱗に触れ、突如破門を宣告されてしまいます。

ファンには知られているであろう顛末は、ここでは触れません。第5章からその場面が出てくるのですが、何がゲンナリって、談志さんの弟子(のみならず、ときにお客さん)に対する無茶ぶり、コミュニケーション。

「客の質が大事」といって約束の高座に上がらない。弟子に「〇〇を盗ってこい」に始まり、無茶無理強いの数々で忠誠を試し、揚げ句「後々、芸に生きてくる」ときた。

読んでいて戦慄したのは、第9章。ブラジル公演を前座と談四楼さん、談志さんの3人で回ったときのこと。噺を終えて高座を降りる際、高座に向かう談志さんはすれ違いざま、談四楼さんにこう言ったそう。

「客は、また同じヤツが出て来たって思うんだろうな」

この意味とはーー。六代目三遊亭圓生とその弟子・好生の有名なエピソードを思い出しました。

師弟とは実の親子以上といえるくらいの濃いつながりであり、成長するにつれ、今度はライバル、下手すれば仇敵にまでなってしまう。愛憎とはかくも深し。

「小言は頭を垂れていれば上を通り過ぎる」と言ったのは、一之輔さんだったっけ。どんな理不尽にも抗ってはいけない。師匠に抗った瞬間、クビなのだから。いちいち気に留めていては自分が病んでしまう。

談志という人の伝説よりも、その伝説を愛し、弟子になった人のしんどさを思わずにいられない。そんな一冊。三遊亭圓丈さんの『御乱心!』を思わせる、痛切な暴露本でもありました。

立川談四楼さん「談志が死んだ」

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