生きていたら確実に(勝手に)「アニキ」と慕うであろう一人が、坂口安吾という人です。
亡くなった人から見た現代はどう映るのか、よく夢想するのですが。
もし安吾が存在していたら、自己成長だの自己変革だの、学びだの気づきだのと喧しい今の世の中をどう見るだろう。
『不良少年とキリスト』(坂口安吾著/新潮文庫/2019年6月1日初版発行)に所収されている評論9編からは、「時代が変わっても人間はそう簡単に変わらないよ」という安吾の声が聞こえてきそうな小編です。
これらは確かに評論ですが、安吾の考えがほとばしる随筆とあえて言いたい。内容も書き味も「エッセイ」というには硬派なので、やはり随筆だな。
表題作『不良少年とキリスト』
友人の太宰治の情死を受けて書かれた、いわば追悼文。太宰の死を加速させたのは、肺病による虚弱と酒である、と。
太宰を「通俗で常識的」と見抜く安吾は、さらに、自分が非凡であり偉い存在であることを自他ともに認めさせたいゆえに太宰は死んだのだと憤る。
太宰に対する深い思いが、書き散らかしたような憎まれ口から伝わります。
なぜ手にしたのか? 読後感は?
評論9編は、いずれも10ページから30ページほどの紙幅で、いずれもあっという間に読めます。
通勤電車での移動にもちょうどよろし。
どれも鋭い洞察ですが、「遊ぶ」ことを肯定しつつも、遊ぶことそのものが必ずしも人間を幸せにしないなどの達観とペーソスに満ちた『欲望について』が特にツボ。
『不良少年とキリスト』は、随筆でこんなに切なくなる読後はそうないぞ、と。しばらく長大息をついていました。
1~2回読んだくらいでは物足りない、物思いに耽りたいときに読みたく、枕頭の書ともしたい1冊です。
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