東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開かれている展覧会『ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター』を観てきました(〜2020年3月8日)。
ソール・ライター(1923-2013)は、ニューヨークを拠点に1950年代から1980年代まで、ファッション写真のフォトグラファーとして活躍。2006年にドイツのシュタイデルが作品集を発売したことを機に、再び脚光を浴びます。日本では2017年に同地で初の回顧展が開かれ、今回はそれ以来の展覧会です。世界初公開の作品を含むモノクロ&カラー写真、スケッチなど218点(参考出品作品を除く)を見ることができます。
歩道から向かいの情景を映す、フェンスの内側から往来の表情を盗み見る、ビルの上から雪道の轍と人々のさす傘を捉える。一見どうということのない寡黙な写真の中には、しかし、こちらの、鑑賞者側の美意識と想像力を掻き立てる刹那が存在します。
作品が並ぶ壁には、ところどころライターさんによる言葉が記されています。なかでも
私が写真を撮るのは自宅の周囲だ。神秘的なことは馴染み深い場所で起きると思っている。なにも、地球の裏側まで行く必要はないんだ。
という、ひとこと。この人にかかれば、なんの気ない日常風景もドラマチックに変わるわけです。とりわけ、それが強く反映されたのが、展示前半のモノクロ写真からカラー写真に変化した直後の作品。雨粒の窓、自動車のボディに写り込んだ街の灯り、傘の色と雨・雪のコントラスト。こういうところに「美のよりしろ」(©山口晃画伯)を包含する感受性と想像力、それを写真で具現化する才能。展示を見ながら感じ入りました。
写真家のセルフ・ポートレートも20点あまり。若かりしころのライターさんは、エルヴィス・コステロにも似た佇まい。単なる自画像ではなく、ショーウィンドウ越しの映り込みを利用したり、洗面所の三面鏡を用いてモデルとの親密感を映すかのような構図にしたり、発想も巧み。
おしゃれで、写真を趣味や仕事にしていると思しき人がこの展覧会に多数来場していたのも、なるほど納得です。題材が身近にあり、そこに気づく美意識があれば、あとは撮ってみる。そう写真家を勇気づけてくれるのですから。