登場人物は漁師と彼を慕う少年のみ。舞台は大海原の小舟の上。
84日間も魚が獲れないツキに見放された老漁師が、満身創痍になりながら巨大カジキを仕留めるも、その釣果をサメに横取りされてしまう。
『老人と海』(アーネスト・ヘミングウェイ著 高見浩訳 / 新潮文庫)は、過酷な現場に密着するノンフィクションように見えて、読後は不思議な味わいを感じる小説です。
ワシは釣りのよさを解さない人間ですが、釣り人の心理が少しだけわかったような気になりました。
誰もがタイトルくらいは聞き覚えがあるであろう、永遠の名作との誉れ高い小説ですが、ワシはこれが初読。
機会がありながらもついつい敬遠してしまっていたのです。
その理由がなんとなくわかった気がしたのは、とにかく出来事のみを客観的に書いていく語り口。ひじょうにドライなんですよね。
前半は釣り人の心理が淡々と綴られ、主人公の漁師がずっと独り言を繰りながら、今か今かと大物を待ち構えている。
正直「こりゃ乗れない」と退屈に感じながら読んでいたくらい。
ですが、後半に大物を釣ったあたりから俄然面白み。
下手すれば自分が食われるのではないかという危険を漂わせながら、船上のカジキを狙ってくるサメと死闘を繰り広げるくだりは、想像する絵柄こそ地味なのにスペクタクルなわけです。
一見表面的な出来事しか書かれていないように見えて、ところどころに鋭く刺さる老漁師の独白が物語の緩急となっています。
獲物を前に「やつもおれの友だちだからな」(中略)「あれほどの魚は見たことも聞いたこともない。なのに、やつを殺さにゃならん」(P.79)
と憐憫を見せたかと思えば、次々に襲ってくるサメに釣果を食いちぎられ、
「叩きつぶされることはあっても負けやせん」(P.109)
と自ら鼓舞する。
かと思えば直後にモノローグで
「罪なんてものがあるのかどうかも、わからん。たぶん、あの魚を殺したのは罪だったのだ。」(P.111)
と弱気になる。
漁の場数も人生経験も積んだ漁師が、大自然を前に感情をうねらせるさま。
海上の情緒は、ハードボイルド一辺倒ではなく哲学的でさえあります。
それがとても、いい。
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