1966年の雰囲気映画、いま見てもおしゃれだ。
鈴木清順監督の生誕100年記念企画として上映されている日活映画『東京流れ者』観てきました。実にいいねぇ。
「あらすじ」は、まぁあってないようなもので。ヤクザから足を洗ったカタギの哲(渡哲也)が元親分の組と対立する組との抗争に巻き込まれる。東京から日本各地を流浪するも、行く先々でも命を狙われ……という話。
邦画が娯楽と芸術性を兼ね備えていた時代
五社協定で俳優が映画会社専属だった1960年代の邦画の作風は、日活も大映もだいたい同じ。『東京流れ者』はテレビドラマに押され、すでに斜陽化が始まっていた映画界にあって、まだ映画が芸術性を持ち得た時代の活劇です。
『ツィゴイネルワイゼン』(1980)などで知られる鈴木清順の4Kリバイバルだけに、宣伝チラシも映像美を強調。カーウァイ、ジャームッシュ、タランティーノ、レフン、チャゼルなどに影響を与えたと誇らしげです。
言われてみれば確かに『ドライヴ』(2011アメリカ/ニコラス・ウィンディング・レフン監督)、『ラ・ラ・ランド』(2016アメリカ/デイミアン・チャゼル監督)の色彩と構図、カメラワークに通じるものを感じます。 なかでもチャゼル監督は、まさに同作は『東京流れ者』にオマージュを捧げた作品と言っているそうです。
美術館にいるような装置やオブジェ、背景を彩るネオンの色彩、渡哲也の着用するペールブルーのスーツ。
ネオンは色鮮やかだけど、どこか退廃的で艶感よりもマットな印象を与える不思議。これが鈴木清順の画なのでしょう。
どれも映画がエンタメとして絶大な支持を得て、ビジネスとして成り立っていたからこその予算のかけ方……なーんて見方は野暮ってもので、スクリーンの煌びやかさにうっとりしていました。
構図の中心にいる俳優が、また絵になる
まばゆい画に配置されている渡哲也&松原智恵子は、リアルを飛び越して、もはやCGっぽさすら感じさせます。
ちょっとはにかんだような、でもキレると怖い青年ヤクザ渡哲也と、彼を慕う歌手でお人形さんのような松原智恵子。目の保養です。
落ち着いていて立ち回りさえもハンサムな二谷英明を筆頭に、脇を固める俳優も硬質でよい。
渡哲也をつけ狙う殺し屋役の川地民夫、敵の組長役の江角英明の渋いグラサン姿、その凄みのある子分役の郷鍈治、ダンディな玉川伊佐男。
皆さん、存在そのものがアダルトで老成している。いや、若さが求められる今の俳優が軽すぎるんだよね。
まとめ
この時代の娯楽作ってどれも歌謡ムードアクション的で、今観るとちょっと笑ってしまう。でもこれこそスターを輝かせるサービスシーンなんだよね。
ツッコミどころはたくさんあるけど、スクリーンで躍動する美男美女を黙って観ていればよいのさ。
一点、酒呑みの目線でひとこと。渡哲也が親分とカティサークを酌み交わす場面で、湯呑みに注いで乾杯していたのにはニヤリ。
茶ではなく酒に湯呑みですよ。いちいちグラスとかじゃないのです。なんでもない日常の延長線上にあるウイスキーって、いいなぁ。