むかし家今松さんの1時間にわたる長講、胸に迫りました。
いやぁよかった。ややネタバレ気味に振り返ります。
本膳 小はぜ
青菜 さん遊
怪談累草子より 親不知 春輔
仲入り
茶漬幽霊 小満ん
心中時雨傘 今松
2025年6月17日18時45分開演 日本橋社会教育会館
『心中時雨傘』端折りすぎのあらすじ
伝・三遊亭圓朝作の人情噺。根津権現で「どっこい屋」=菓子当て屋台を営むお初と、型織職人・金三郎が心中する物語。
金三郎は無法者に絡まれたお初を助けたものの弾みで相手が死んでしまう。その男気に惚れたお初は稲荷町の自宅に送ってくれた金三郎に逆プロポーズするも、自分は下手人だからと首を縦に振らない金三郎。翌日お縄になったのはまさかのお初。慌てた金三郎は後から奉行所へ駆け込む。
互いを庇っていると知った奉行のとりなしでふたりは放免。夫婦になったふたりはお初の母とともに長屋で慎ましやかな暮らしを始める。ここまでが前半。
大家の頼みで酉の市の出店を手伝った金三郎とお初は、稲荷町のほうで鳴る半鐘に慌てて自宅に戻る。火に巻かれた家に飛び込んだ金三郎だが、お初の母を救助の際に落ちてきた梁が右腕を直撃。
医者の見立てでは、骨が砕けており見込みはない。
日々の仕事に支障が出るのみならず徐々に体調が悪くなる金三郎は、自殺を考えるように。
その様子を見たお初は……。
むかし家今松さんの『心中時雨傘』
演題でググると演題通りに悲しい結末まで記されているWeb記事がほとんどですが、今松さんはサゲにアレンジを加えて驚きの終幕に。
くぁ〜っ、言いたい。言いたいがグッと堪えて。
ひとことだけ言うなら「これなら納得」な結末であるということ。通常の心中もの(?)なら歌舞伎でやればいい。けれどもこれは落語です。それを忘れちゃけない。
今松さんは本作を自身の高座にかけようとするとき、絶妙な幕を用意してくれたのでしょう。この結末はコナー・マクファーソンの戯曲『海をゆく者』を想起しました。
現実はまったく変わっていないけど希望が持てる。現実に折り合いを付けながら生きていく。そんな作品。
個人的に自分の行動範囲=住まい周辺が演題の”ロケ地”になっていることを、今松さんがマクラで江戸の三大祭りに触れたことで知ったのも新鮮な驚きでした。
ベテラン師匠方の安心の高座
柳家小はぜさんの軽妙な『本膳』、柳家さん遊さん『青菜』は嫌いな夏が受け入れられそうな涼やかさ。
『怪談累草子より 親不知』は越中の養家を出奔して親元の江戸に向かう武士の次男坊が、宿で出会った女子に惚れて思いを遂げたことから起こる悲劇。
八光亭春輔さんのそれは怪談というよりも講談の語り口。鳴り物も入って雰囲気抜群です。
亡き妻の遺言を反故にして再婚した男の背後に現れた妻の幽霊の怨み節が聞きものの『茶漬幽霊』。
柳家小満んさんのややしゃがれた声質が、妻の「怖くないお化け」とマッチして醸される安心感です。
ここまで書いて、この日は幽霊繋がりのテーマだったと気づくありさま。『青菜』も後半のおかみさんがある意味お化けみたいですもんね。