登場人物の8割以上が死屍累々となる『ハムレット』(1600‐01、ウィリアム・シェイクスピア、新潮文庫、Hamlet)に陰惨さを感じないのはなぜか。
悩みに悩んだ末に宿命を遂げる主人公ハムレットにカタルシスを得るから。
悩み、葛藤を経てゆえにようやく果たす。それが刺さるのです。
あらすじはシンプル。父王の亡霊によって、その死が叔父クローディアスと母ガートルードの陰謀によるものと告げられたデンマーク王子ハムレットが復讐する。
人が見せる一面はただの一面に過ぎない
ハムレットは亡霊の真相告白に衝撃を受け、とまどい、どうすべきか煩悶します。
親友ホレイショーには本音で向き合い、恋人オフィーリアや母、叔父たちの前では狂人のフリをする。
冷徹にその機会を窺うのではなく、その間にはしゃいだり、冗談を言ったり、余裕を見せたかと思えば切羽詰まる形相も見せる。
犯罪者の知人が「大それたことをしでかす人には見えなかった」と答えるお定まりのコメントを引き合いに出すまでもなく、人は誰でも一面では測れないもの。ハムレットの振る舞いでそれがわかる戯曲の素晴らしさ。
物事をコントロールしようとし、思いがけはない結果を招くことへの皮肉が表れた妃の毒殺の場面が個人的なハイライトです。コントローラー型の人間とは相容れないゆえ。
名台詞のオンパレードも心地いい
新潮文庫版の福田恒存訳は、格調高い語と文章に満ちています。
「この世の関節がはずれてしまったのだ」
「生か、死か、それが疑問だ」
「大衆というやつは、理性で判断するということを知らない。ただ見えたところだけで好悪を決めるのだ」
「あれほど気高い御気象だったのに、それがこうもたわいなく!」
「忠誠など、くそくらえ!」
ハムレットの台詞に限らないし、他の4大悲劇と比べても声に出して読みたい度が高い気がするのです。
シェイクスピア劇のなかでも人気・知名度が高いのもうなずけます。
下の写真は『ガラスの仮面展』で買ったブックカバー。北島マヤが稽古でオフィーリアを演じている場面が描かれています。
これにシェイクスピアの『ハムレット』を収めて読む……我ながらオツだわ。
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