読後真っ先に『ハーメルンの笛吹き男』を想起したのは、寓話=教訓的なストーリーが脳裏に焼きついたからかもしれません。
SFの名手でショートショートのパイオニアでもある星新一の短編集『ボッコちゃん』(新潮文庫、1971年初版)は、超短編50作をライト感覚で読めるはずが、終わってみれば胸やけしそうなほど。
その中身はボーダーレスで、作家自身が「あとがき」で触れている通り、SFやホラー的なもの、ミステリー、ファンタジーなど幅広い自選集となっています。
星新一の短編作の特徴は、ダイレクトに良し悪しで割り切れず不思議な心持ちにさせられる、立ち止まって意味を反芻させられる……そんな読後感でしょうか。
BARのマスターの自作した美女のロボットが客あしらいする『ボッコちゃん』は映画『シャイニング』のバーの場面を想起させ、底なし限度なしの地球のゴミ箱が出てくる『おーい でてこーい』は核燃料サイクルに悩む現代の予兆でもあり、『生活維持省』『最後の地球人』は平和が規格化された世界の末路を突きつけます。
演劇好きの身としては、メソッドアクターのやりすぎをユーモラスにした『なぞめいた女』でクスッと。
一連の作品は映像や演劇にしやすいかなとも感じたけど、そうやって「画」にした瞬間におそらく希釈されてしまう。
文章だからこそ「三次元として起きたら」と想像できるのです。
同時に、最近ネットでよく見かける「意味が分かると怖い話」を思い出しました。
これらはある種のトリッキー、レトリックもウリですが、星新一作品がそれらと異なるのは普遍性がもれなく付いているから。
比較すること自体ナンセンスで怒られそうですが「意味が分かると怖い話」の作者の中には、星新一の影響を受けている人も普通にいるだろうと推察します。
まぁこうしてストーリーを夢想するだけでも楽しそうです。
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