ひとことで云えば、ロンドンの高級レストランの厨房を舞台にしたドラマ映画です。
この『ボイリング・ポイント|沸騰』(2021年イギリス/原題:Boiling Point /フィリップ・バランティーニ監督)は、ワンショット撮影によって料理人の鮮やかな動きを見せる、緊迫感のあるドキュメンタリー風の作品かと思いきや、さにあらず。
組織マネジメントでも従業員個人個人でも問題だらけ、薄氷を踏むような状態の中、予約はオーバーブッキング、来るのはいわく付きの客ばかり。
アルコール依存症らしき主人公のシェフ(演者のスティーブン・グラハムは、ラッセル・クロウを疲れさせたような風貌)を軸に、レストラン内の従業員と客の後を尾けるようにカメラが密着します。
かつて自分が師事した有名シェフが料理評論家を抜き打ちで連れてきたことに怒り心頭のシェフは、周りのスタッフと口論が尽きない。
黒人ウェイトレスに差別的な客、プロポーズする相手の女性はナッツのアレルギー持ち、メニューにない注文を押し付けるインフルエンサーとそれを安請け合いして厨房を混乱させる女性オーナー。
この矢継ぎ早なアクシデントに、ただの厨房格闘モノではないぞとハラハラ。
締切間際に多数の案件を同時に回したことがある人なら、身につまされるヒリヒリ感に襲われるはず。
さながら消化不良の、まったく快哉のない『王様のレストラン』ってとこ。
で、本作のタイトルは「沸騰」という副題が付いていますが、その意味が最後の最後で判ります。
鬼の描写というか、この結末とタイトルと意味が合致したときは戦慄しました。
ネタバレになるから書けないけど、あなたが激辛の人間ドラマが好きなら、本作は裏切らないでしょう。
個人的には面白かったけど、決して万人ウケする話ではないです。
デートにも向きません。
ドラマティックな作品でいろいろ語りたくなる映画ではありますが、鑑賞要注意です。