最終日とあってか一之輔さんもいつも以上にテンション高めに見えました。
実際サービス満点の高座で、1席目はご本人が「これで1席ね」と区切るくらいマクラが長かった。
トーク 春風亭一之輔
洒落小町 春風亭一花
青菜 春風亭一之輔
仲入り
らくだ 春風亭一之輔
2025年11月22日18時開演 よみうりホール
コンサートや演劇、落語会などで流される開演前のアナウンスは一之輔さん自ら担当。
出演者がアナウンスする趣向は今や珍しくありませんが、口演中の着信音が演出の妨げになっている携帯を切らせるアイデア。
イヤミなく、それでいて強圧的でないのに電源OFFの強制力を持たせる巧さ。一之輔さんにとってはこの行為ですらエンタメなんですね。
でも工夫の裏に苦心の跡を垣間見ます。噺家や講談師の皆さんだけでなく、ちゃんとマナーを守る大半の観客にとっても悩みのタネですもん。
今回のツアー最終日は初のライブビューイングも同時開催とあって、オープニングトークでは一之輔さんが劇場の観客に対して呼びかける一幕が。
動員数の多い&少ない劇場を、観客の数を暴露(少ないところでは1ケタも)しながら笑いを取るのがいかにも。
1席目はまさかの『青菜』。客が予想だにしていない季節外れの噺で奇襲するのも、いかにもこの人。
2018年の同ツアー仙台公演で聞いたことがあり、当時からバージョンアップ改変されています。
記憶違いでなければ、後半の植木屋さんとコワモテの女将さん、大工の半公の3人のやり取りが特に。
女将さんをタガメに似ているとたとえ、鎌のような前足を表現するくだりなどは子どもが喜びそうな演出で、実際に客席から子どもの笑い声が聞こえたほど。
2席目はお子さんの笑いが聞こえてきてうれしい的な振りから『妾馬』と見せかけるフェイントで『らくだ』を。
この噺はコワモテの橘家文蔵さんの印象が強いのですが、一之輔さんも意外にマッチしています。
長屋の連中から鼻つまみ扱いされているならず者、通称「らくだ」がフグの毒に当たって亡くなり、その死体を見つけた兄貴分の半次。
半次は通りかかった屑屋を無理やり引き留めた挙げ句、香典や酒などを住人たちにせびりにこき使う。
この屑屋さんが酒豪(酒乱)だったことから半次をビビらせる逆転がこの噺のキモ。
一之輔さんは無理強いする半次の酌を制しながらも、徐々に本性を表していく屑屋さんの擬態を細やかに演じます。
屑屋さんが「らくだ」の暴力で顔を負傷して帰宅した際、15歳になる娘さんが手当てしてくれたと涙ながらに述懐するくだりは人情噺の趣きすら感じさせる凄み。
子育て真っ只中であり、子ども好きな一之輔さんならではの愛の片鱗を目撃した気がします。


