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【小説】太宰治『晩年』:豊かな才能と深い葛藤が込められた小説集

太宰治『晩年』

これが処女創作集とは改めて驚嘆、しかも推定23歳か24歳で書いたものというのだから二度びっくり。
太宰治の『晩年』(新潮文庫、1936年、砂子屋書房初版)は、才能爆発前の萌芽が……もとい、すでに才能のデパートといっても過言でないバラエティに富んだ全15編からなるアンソロジーです。

このうち個人的に印象に残ったのは以下の4編。

『思い出』は自らの幼・少年期を振り返った半自伝的小説で、すでにナルシストの片鱗が表れているのがなんともはや。でも文体は自然で瑞々しく、弟と交わした赤い糸にまつわる会話や、小間使いのみよに初恋したくだりなどは微笑ましいことこの上なし。
『道化の華』は共産主義運動に疲弊した作者が起こした銀座の酒場の女給との心中事件が題材。死にきれなかった自分(大庭葉蔵=『人間失格』の主人公と同名)の入院生活を通して、罪と自意識の間に揺れる心情を吐露します。途中、小説を中断して突如登場する作者の自意識はいささか芝居がかっていますが、類稀なる演出ととらえれば納得できなくもない。
『逆光』は4編の掌編を収めたもので、第1回芥川賞の候補作となったことで知られています。これまた作風に自我が顔を覗かせており、でも嫌味でないのが太宰のなせる業。

最もよかったのは『彼は昔の彼ならず』で、青扇という風来坊とその女房と高等遊民の「僕」との不思議な交遊がペーソスを奏でます。最初こそ文章にイラッとさせられるのに、読後はニヤッとさせられる不思議。

それにしても。
作者に対する知識がなければ、キャリア後期の作品ではと見紛うようなタイトルで、これまた太宰の人を食った側面かなと。
でも本作の執筆で「十箇年を棒に振った」と作者が述懐し、己の出自が農民から搾取する側のブルジョアと悟って以降の絶望と反逆から小説に向かわせた背景を踏まえると、作品が次元の異なる凄みをもって読者に迫ってきます。

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