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【小説】梶山季之『黒の試走車』:あらゆる娯楽要素が詰まった大衆小説

梶山季之『黒の試走車』

今では考えられないセクハラな男の言動や対照的な女性のエレガントさ。なんたって、女性の下着を「パンティ」と表現しているんだからね。クラクラします。
これを梶山節と云ったら怒られるんだろうけど、高度経済成長期ならではのノスタルジーは否定できません。

大下英治さんが梶山季之(1930-1975)を指して「最後の無頼派」と呼びましたが、その破天荒な爪痕とあらゆるジャンルに書きまくる多作ぶりは生き急ぎすぎともいえます。
スクープ記事を連発する「トップ屋」から小説や随筆などボーダーレスに枠を広げた梶山が流行作家に飛躍する契機となったのが『黒の試走車』(くろのテストカー / 1962年光文社初刊)です。
ネタバレなしで簡単に紹介します。

『黒の試走車』あらすじ

1960年代前半のモーターリゼーションに沸く日本。中堅自動車メーカー「タイガー自動車」の企画一課長・柴山が箱根で不審な事故死を遂げる。
親友で同僚の朝比奈は、柴山の死後に新設された企画PR課の課長に就任。表向きの仕事は市場調査や宣伝だが、内実はライバル企業の情報を盗むこと=産業スパイだった。
熾烈な新車開発・販売競争を勝ち抜くべく、そして柴山の死の真相に迫るべく、朝比奈は権謀術数の世界に身を投じていく。

デジタルなき時代の諜報戦のゆくえ

古今東西スパイの世界を描いた作品は映画も小説も珍しくありませんが、フィクションで味付けされた感はどうしたってね。
ですが、『黒の試走車』のそれは産業スパイ。いわば企業の情報戦であり、パソコンもメールもSNSもない時代において泥臭いほどの騙し合いと心理戦が繰り広げられます。
売り出し中のライバルの新車が故障すると見せかけるために列車妨害でニセの事故を起こす謀略から始まる冒頭。これに負けじと朝比奈も必死に対抗しつつ、敵を罠にはめようとします。

ごみ屑・鉄屑漁りからチラシ印刷所の買収、業界紙記者買収で優位な記事を書かせる、愛人を使ってハニートラップでライバルメーカー重役から情報を引き出す、エンジニアの買収や脅迫、テスト車の盗撮、会議の盗聴などなど。

親友の弔い合戦から始まったはずが、課せられたミッションとはいえ知能戦と化かし合いの様相を帯びてきます。

朝比奈は〈ティン・リジー作戦〉の秘密を、外部に気づかれまいとして疲れ、ライバルメーカーの生産計画を探ろうとして疲れ、また柴山美雄が〈なぜ、だれに、会ったか〉について手がかりを求めようとして疲れていた。
梶山季之『黒の試走車』(岩波現代文庫)

〈ティン・リジー作戦〉とは朝比奈の属するタイガー自動車が極秘に立ち上げたスポーツカー開発のプロジェクトで、これを成功させるため朝比奈たち企画PR課員は陰で奔走します。

産業スパイの裏側を垣間見るだけでなく、いつしか朝比奈の探偵ぶりを側で見ているような感覚に。スパイ小説と経済小説と推理小説をごった煮にしたような娯楽作です。

まとめ

情報の奪い合いだけでなく、作中に描かれる良く言えば男女のロマンス&悪く言えば滑ったい関係などは、男性向けのもろに大衆小説なんですよね。そこは読み手を選ぶというか、注意が必要です。
いっぽうで本作で描かれるクラブのホステスの淑女的な言動や言葉遣いは、初版から50年以上経た今だからこその感慨、古きよき。

梶山季之の小説の読みやすさは、現代のネットでバズる記事の書き方にも似ているところがあります。
たとえば適度にモノローグを入れる、「!」の表現がたびたび入る、一文が短く段落を長くても三文程度で変える、などなど。

もっとも梶山さんは書店に置いていない「忘れられた作家」のひとりですから、今後も遡って古本屋さんで探すことになるのでしょうね。

本作はまた同名タイトルで映画化(1962年大映 / 増村保造監督)されています。主演はもちろん田宮二郎。増村も田宮も伝説の担い手ですから今後もたびたびリバイバル上映されるはずです。

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hiroki

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