酒井順子著『日本エッセイ小史 人はなぜエッセイを書くのか』(講談社)を読了。
アイキャッチ画像のオビにもあるように、エッセイストの酒井順子さんが時代を象徴するエッセイ約160作品の内容をハイライトしながら、エッセイがなぜ息の長い人気を博すのかに迫る書籍です。
内容
ベストセラー『負け犬の遠吠え』をはじめ、女性の生き方論から社会時評、紀行ものや文学まで幅広いテーマを書くことで知られる酒井順子さんが綴る「エッセイにまつわるエッセイ」。
エッセイやコラムの名著の歴史をを時系列で振り返るものではなく、独自の切り口で章立てしてエッセイの今昔をなぞります。
各章は
- エッセイとは何か
- 時代とエッセイ
- 女性とエッセイ
- エッセイの未来
という構成で、巻中に「消えた一世風靡エッセイスト」、巻末に「本書に登場するエッセイ作品一覧」も。
『小説現代』2020年9月号~2022年3月号に連載されたコラムを改題、書き下ろしを加えて再構成したものです。
なぜ手にしたのか? 読後感は?
自分が書くのが好き、またコラムやエッセイ好きということもあり、神保町の東京堂書店で平積みにされているのを目にしたときから、なんとなく読みたいなと。
そのときはいずれ読むかでスルーしたのですが、欲求は薄れず、日本橋丸善で再度見つけて購入した次第です。
さすが酒井順子さんだけあって、分析が見事。要素のひとつを抜きますと……。
講談社エッセイ賞第1回の受賞者は野坂昭如『闇を撃つ』で、政治家としての活動顛末を記した硬質なもの。
それに対抗してではないけど、『小説新潮』の臨時増刊として出された『書下ろし大コラム』には村上春樹、糸井重里、川崎徹などの執筆陣が。
80年代半ば、「軽めでおしゃれなエッセイ」の流行に、野坂が敢然と反論したのは、若者が一番えらいという風潮への批判だったからでは……という酒井さんの論考に頷かされます。
連載をまとめただけに、章はさらに節に区切られ、ひじょうに読みやすい。
節ごとの最後に酒井さんが立てる仮説や分析は「なるほどな」の連続です。
読んで得たこと
- たとえば「コラム」と「エッセイ」はどう違うか、これらと「小説」との違いは何かを理解
- 紀貫之からジェーン・スーまで、本書で触れられているエッセイを全部読みたくなる
個人的には最も好きな本のひとつである伊丹十三の『ヨーロッパ退屈日記』(新潮文庫)に、本書が折に触れて言及しているのにスカッとしました。
まとめ
この本がすごいのは、酒井順子さんの見立てもさることながら、時代背景の分析に加え、エッセイのジャンルに優劣を付けていないこと。
清少納言『枕草子』、正岡子規『病牀六尺』のような古典・名作から、吉行淳之介、永井荷風など作家によるもの、沢木耕太郎のようなノンフィクション系、矢沢永吉『成りあがり』のような芸能人のものまで、ちゃんと各ジャンルを押さえている。
たどるだけでも大変だったのは想像に難くないけど、本書こそ婦人公論文芸賞と講談社エッセイ賞をダブル受賞した酒井さんならではの仕事だったんだろうなとも感じます。