東京・竹橋のMOMAT、東京国立近代美術館。鏑木清方「築地明石町」の特別展示に浸った後、場内アナウンスで「ガイドツアー」が行われると知り、参加してみました。
ガイドツアーは、美術館の展示品の前で、学芸員など美術館の関係者が、その作品について鑑賞者に説明してくれるもの。この近美では所蔵品展(常設展)について、毎日14時開始(所要時間は60分、集合場所は1階入口付近)で行われているそうです。
ガイドしてくれたのは、近美でボランティアガイドを務める中尾さん。担当ガイドさんとテーマは毎日異なるそうで、テーマや作品選びはガイドさんに任されているとか。なにしろ近美は、会期ごとに展示替えがある所蔵作品展(MOMATコレクション、所蔵品ギャラリー2~4F)だけで展示数約200点、コレクション総数にして13,000点超という膨大な作品を保有しています。個々の作品を繙いていたら、時間が足りません。
この日、中尾さんが設定したテーマは「ここはどこ?私はだれ?」。ガイドツアーというと、どこの美術館でも案内役の担当学芸員が作品について説明してくれるのが一般的。中尾さんはそうしたやり方とは異なり、対話重視で、積極的に参加者に発言を促すやり方です。
もちろん作品について説明もしてくださいましたが、参加者に「絵の解釈に正誤はないのだから、作品の脇に書かれたキャプションを最初に読むことをせず、率直な感想や意見、解釈を」という旨のことを仰っていたのが印象的でした。
川瀬巴水版画作品、靉光「眼のある風景」、鏑木清方「隅田河舟遊」の3点を観ながら、テーマに沿って展示室を渡り歩きます。
川瀬巴水の版画では、われわれ参加者を「『海外から来日し日本の絵を買い求めに来た人』という設定で、1点これだとい作品を選んでください」と。作品100数点の中から気に入った作品を3分で選び、なぜその作品を選んだのか、一人ひとり述べ合います。
靉光の「眼のある風景」は、ひじょうに硬質で禍々しい印象がある作品。画家はどういう意図でこの作品を描いたのか、この作品から受ける印象について、参加者の皆さん一人ひとりの解釈が実に面白かった。
鏑木清方「隅田河舟遊」は、今でいう屋形船に乗って舟遊びに興じる(文楽を観ているらしき)やんごとなき女たちと船頭、その周辺の舟で女と飲む若侍、猪牙舟でいずこへ向かう顔を隠した武家などを描いた六曲一双の大作屏風絵。
この絵の前では、参加者が推理合戦を展開。この絵に描かれているのは隅田川の何処か。描かれているのは何人か。舟の中の登場人物で身分がいちばん高いのは誰か。顔を隠した武士はどこへ向かうのか。上流は絵に向かって右か、左か。そういったことを考えながら鑑賞しました。
それにしても。個人的に、絵の脇に記されている絵解き(キャプション)を読みながら絵と向き合いがちですが、それはちょっと悪いクセだなと自認しました。観光地でガイドブックを見ながら、「あ、写真と同じだ」と言っているようなもの。自分のまっさらな感覚を研ぎ澄ませて、作品と向き合いたいなと。その気づきとなる、新たな鑑賞体験ができました。
審美眼って、教え諭されるされるものでなく、自分で磨くものですもんね。