三谷幸喜さんが赤狩りをテーマに書き下ろした新作『アメリカン・ドリーム』を観てきました。
これは名作『笑の大学』アップデート版と呼びたいくらい。三谷さん久々の快作です。
以下ネタバレ気味に紹介します。旅公演中なのでこれから観劇される方にはブラウザバック推奨。
『アメリカン・ドリーム』あらすじ
第二次大戦後の米国では反共運動に基づく“赤狩り”によって政官文化界で思想弾圧が行われていた。
映画産業も例外ではなく、下院非米活動委員会は映画監督(浅野和之)、脚本家(小日向文世)、ドイツ人作家(山崎一)、女優(関谷春子)のハリウッド映画人4人を召喚し、厳しい尋問を行う。
委員2(中川大志)と委員1(浅野雅博)は、4人をホテルのスイートルームに個別に呼び出し「いま現在、あるいはかつて、あなたはコミュニストでしたか?」と質問を切り出す。
委員たちは4人に対峙し、密告すれば仕事が継続できると硬軟取り混ぜながら巧みに尋問していく。
帰ってきた三谷流ワンシチュエーション会話劇
検閲を題材にした『笑の大学』(’96年初演)は、検閲官が手直しを要求すればするほど作家がどんどん面白くしてしまう戯曲の妙もありました。
今回はハリウッドの作り手たちへの思想信条の検閲を題材に、三谷さんが表現者へのエールを提示したような形とでもいえましょうか。
共産主義に傾倒する映画人たちの集まりに出席した人物の正確なリスト作成を進める委員は、出席者のウラを取ろうとして4人を詰問します。
女優は仕事の継続を求めて協力するか否か苦悶し、映画監督はしたたかにゼロ回答を貫き、ドイツ人作家は故国の独裁から逃げてきてアメリカン・ドリームを夢見た結果、自分が受ける仕打ちに反論する。
最後に尋問に呼び出された脚本家は「弱者のための映画をつくってきた自分が仲間を売るわけにいかない」と淡々と、しかし毅然と委員に向き合います。
映画通の委員2が懐柔し、映画に理解も興味もない委員1が厳しく追及するという、ふたりはいわばグッドコップ・バッドコップ的手法で尋問を展開。
委員1の初心者視点が狂言回し的な役割を兼ね、観客は当時のハリウッドの様相を自然に垣間見ることができるわけです。
浅野和之さん演じる映画監督のモデルはおそらくエリア・カザンで、小日向文世さん演じる脚本家はダルトン・トランボでは?
ご存知の方は教えてほしいな。
クラシックな密室劇は驚きの二段オチに
物語の舞台となるのはホテルのスイートルーム。
広間が映画人たちの控え室、小部屋が尋問室の設定で、この小部屋が舞台上に配置されています。
4人の映画人たちは小部屋にひとりずつ呼び出されて尋問を受けるので、言ってみれば4場で展開する戯曲とも読み取れます。
てっきりワンシチュエーションの群像劇を想像していたので、これは意外でした。
小日向さんなど後半に登場する役者さんの待ち時間も相当ですから。
でも実はこの構成は計算し尽くされており、控え室での様子を委員が隠しカメラで盗撮している寸法。
映画人たちが待機している様子は、委員1がたまに覗き見るモニター画面が舞台の上部に映像として映し出され、観客に共有されます。
ああ、収録した映像を流しているのだな、と。
最近の演劇で用いられる映像での補助表現に正直「またか」と脱力したのですが、これが単なるギミックではないことが最終盤に明かされます。
ラスト、尋問が終わり一同解散となってシャンシャンーーではなく。
舞台後方に(観客に見えないように)設置されていた控え室がせり出し、控え室での映画人たちの演技に切り替わるのです。
尋問を終えた映画人たちが今後について話し合う、クライマックスの緊張の解けた「その後」が描かれる二段オチ。
三谷さんならではの手の込んだ戯曲を、舞台美術が豪華に補う。
こういう見る側を気持ちよく騙し「やられた感」を植え付けてくれるのは三谷さんの真骨頂といえるもの。
2025年の東京サンシャインボーイズ復活公演『蒙古が襲来』など近作の三谷戯曲と演出には失望していたので、天才作家の本領回帰を観られてうれしいかぎり。
たぶんWOWOWで放送されると予想、ご興味あればぜひ。
2026年9月2日13時開演 @PARCO劇場

