ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督が昭和天皇を題材にした『太陽』(2005年ロシア・イタリア・フランス・スイス / Солнце, The Sun)をリバイバル上映で鑑賞。
2006年の日本公開時に大ヒットした作品ですが、当時見逃していた私は20年後にようやく観ることができた形です。
いやぁ素晴らしかった。
なにがいいって、天皇裕仁の人間性を想像力や(おそらくは資料・史料など)を駆使して踏み込んだ姿勢です。
本作は1945年8月15日前後の天皇の日々を描いています。
昭和天皇は神格化された存在=太陽であり、皇室に対する批判などは不敬罪(1947年の刑法改正で廃止)に問われるし、そもそも論評自体がタブーとされていた時代です。
今上天皇ご一家の行幸啓は頻繁に報道され、宮内庁がInstagramアカウントを開設する現在の「開かれた皇室」とは全く異質。
ゆえに、よくぞここまで描いたなぁと。
本編はほとんどが日本語で、天皇がマッカーサーと会見する場面は英語(日本語字幕)です。
日米の恩讐を露の映画監督が題材に取る。月並みですがそれがまた日本人が描いたのではと感じるほど真に迫っている(気がする)。
というよりも日本人の作り手には無理でしょう。
巧みな演者の功績はもちろん大きい。イッセー尾形は本人の話し方の癖、仕草を取り入れながら太陽=天皇として、またひとりの人間ヒロヒトとしての両側面を演じきっています。
殿上人としての苦悩は頬のこけた(減量して臨んだのでは)容姿から歩き方、自分一人ではドアの開け閉めも衣服の着替えできない場面に表れ、人間性は老僕に対しての叱責や、疎開から戻った妻の香淳皇后(桃井かおり)と再会して思わずその胸に飛び込んでしまうところに映されます。
イッセーさんが昭和天皇の口癖である「あっそ」と再現(それも何度か)したのは、ほんとうれしかったんですよ。個人的にツボでした。
敗戦濃厚となったときの閣僚との会見で阿南惟幾陸相(六平直政)は感極まり、米内光政海軍相(西沢利明)は陸軍への皮肉で返すといったやり取り。
重々しさを再現できる草薙幸二郎、品川徹ほか重厚な役者を揃えたのも拍手です。
なかでも侍従長を演じた佐野史郎さんがもうほんとに完璧でした。
「お上」と呼んで付き従い、意見を求められれば控えめに答え、「人間宣言」を密かに決意した天皇に衝撃を受ける。
すべてを受け止める最側近の包容力というものを体現しています。
これにセピア色のような画がよりいっそうの説得力を醸すのです。
まるでパートカラーのような色彩はソクーロフ監督の作風だそうで、それがまた当時の陰鬱な世界にハマっています。
現在の日本は政治が戦後最も酷い状況と個人的には捉えているのですが、1945年の天皇の人間性と苦悩をこのタイミングで映画として見せられた意味も脳裏に浮かべながら飲みに出たのでした。
2026年10月14日 @シネマリス シアター2
