1996年パリ初演、エリック・エマニュエル・シュミットの戯曲を翻訳した舞台『謎の変奏曲』(岩切正一郎翻訳、森新太郎演出)を観てきました。
2017年9月24日まて世田谷パブリックシアター、9月30日・10月1日に大阪サンケイホールブリーゼ、10月3日に新潟、10月7日・8日に福岡で上演されます。
ノルウェーの孤島に暮らすノーベル賞作家アベル・ズノルコ(橋爪功)の家を訪ねた地方紙の記者エリック・ラルセン(井上芳雄)。目的はズノルコの新作「心に秘めた愛」についてインタビューするため。
頑固で屈折したズノルコに反発し、自分の意見も交えながら食ってかかるように質問攻めにするラルセン。そして、二人をめぐる驚きの事実が明かされていく。
男女の手紙のやり取りに終始したこの新作小説のモデルは誰なのか? なぜ手紙のやり取りが突如途切れる結末にしたのか?作品はズノルコの恋愛の実体験が反映された私小説なのか?
そうした事実が1幕の後半から徐々に明らかになり、2幕は二人の男の「まさか」というバックボーンが明かされる、どんでん返しが続きます。
ただしミステリーとして純粋に楽しめるかというとそうでもない。男女の恋愛やセックスについての生々しい台詞がかなりあるので、誰かと一緒に観に行く場合はお連れさんにご注意を。観る人を選ぶ芝居です、これ。
と同時に、ストーリーと台詞で魅せる二人芝居でもあります。橋爪功さんはテレビドラマの印象が強いですが、本職の舞台役者として貫禄が違います。井上芳雄さんは最近この作品のようなストレートプレイにも積極的ですね。観客は8割方女性でほとんど芳雄ファンだと想像しますが、この物語は楽しめたのかな?
橋爪さんはドラマでおなじみの飄々とした役柄とは違い、この芝居では本当に気難しい偏屈なノーベル賞作家に見えました。対する芳雄さんはやはり何をやっても溌剌とした芳雄さん。憑依型の橋爪vs正統派の芳雄。共通するのは滑舌の良さと安定の演技ですね。それゆえサスペンスフルなのに、観客としては安心感がありました。
この作品なんと日本では3度目の再演だそうです。初演は98年に仲代達矢&風間杜夫、再演は杉浦直樹&沢田研二(!)で。ちなみに仲代さんと風間さんは17歳差、杉浦さんとジュリーも17歳差。今回の橋爪さんと芳雄さんは38歳差です。と言いつつ今の時代、年齢はもはや意味がないかも。橋爪さんの世捨て人を気取りつつ、現役感バリバリという役柄がけっこうはまってました。
一人の「運命の女」にかかわる二人の男の物語。何か既視感がある気がして、すぐ思い出しました。白川道の短編小説集『カットグラス』(文春文庫)に収められている「浜のリリー」がこういう話でした。
女がある秘密を抱えていたこと、それを知ってしまった男の葛藤。読み直し、やっぱり似てる。女の呪縛にとらわれた男はそこから抜け出るのは容易ではない。弱くて悲しい生きものだなぁ、男って。