日生劇場で公演のミュージカル『ベートーヴェン』、初日を観てきました(2023年12月9日17時)。
結論、個人的には一度観れば十分満足で、できるだけ多くのミュージカルファンの感想を聞きたいな、と。
あらすじ
舞台はベートーヴェンが聴力を失った1810年から1812年のウイーン。既に作曲家として地位を確立していたベートーヴェン(井上芳雄)だが、リサイタルで無礼を働いた貴族たちに謝罪させようとキンスキー君主(吉野圭吾)を訪ねた際、トニ(花總まり)に出会う。
四面楚歌にあったベートーヴェンの味方をしてくれたトニにベートーヴェンは敬愛の念を抱く。トニは夫で銀行家フランツ(佐藤隆紀)との不仲に苦しんでおり、それはやがてベートーヴェンとの道ならぬ恋へと発展する。
スタッフもキャストも豪華だが
ミヒャエル・クンツェ&シルベスター・リーヴァイという、言わずと知れた名作『エリザベート』の生みの親が詞曲を手がけ、井上芳雄&花總まりという当代随一のキャストが主役。
脇を固めるのも海宝直人はじめ錚々たるメンバーで、東宝の力の入れっぷりがわかります。
が、しかし。
捨て曲なしの『エリザベート』や『モーツァルト!』の「僕こそ音楽」「星から降る金」ようにキャッチーな楽曲がなかった。
『ベートーヴェン』は曲が難しいのは素人でもわかるのだけど、気持ちを揺さぶられるかというと、ちょっと違う。
聞くところによれば、世界初演された韓国でも本作は賛否両論だったとか。
劇中「運命」「田園」「エリーゼのために」「第九」などベートーヴェンの楽曲をアレンジして使用しているのが、結果的に縛りとなり、クンツェさん&リーヴァイさんの持ち味が削がれてしまったのでは。
海宝直人さん、佐藤隆紀さん(悪役がハマってて驚き)のような実力派の使い方も実にもったいない。
海宝さん演じるベートーヴェンの弟ガスパールとベートーヴェンとの確執も物語の柱ですが、この二人がなぜ和解に至ったのか全然わからない。
他にも端折りすぎではという登場人物の関係性があり、最後まで「?」なところも。
加えて演出面。
芳雄さんが2幕冒頭でタクトを振るシーンや、ラストにベートーヴェンが一人去っていく影を帯びた演出は、これまでの小池修一郎演出作品とは異なるもの。
いかに重い作品とはいえ、もう少し盛り上げ方があったんじゃないかな。
でも個人的には、正直あのミュージカルらしからぬ内省的なエンディングは好みなんです。後ろ手で俯き加減に去っていく芳雄さんも、結構じゃないですか。
まとめ
音楽家の苦悩と不倫の恋。重苦しいストーリーも、スター井上芳雄さんの陽キャぶりが幾分救っているかも。
これにキャストの歌唱の凄さが相乗していましたが、スタッフとキャストの面々から期待以上を望んでしまうのは、如何ともしがたく。
登場場面こそ多くないものの、トニの義妹ベッティーナを演じた木下晴香さんが、個人的には目を引きました。
おそらく今後のミュージカル界に名を刻む作品として目されているのでしょうから、ぜひぜひブラッシュアップしてほしい。再演を楽しみにしています。