1967年(昭和42)上半期の第52回直木賞受賞作にして、和製ハードボイルド小説の元祖といわれる『追いつめる』(生島治郎著/1994年角川文庫第1刷)。
広域暴力団壊滅を目指す過程で同僚の刑事を誤射してしまった男が、警察を辞めて単独で巨大組織に立ち向かう物語です。
生島治郎の作品はほとんど書店で見かけなり、さながら「忘れ去られた作家」のようでもあります。本作は時代背景や文章表現などでひと昔前の小説を読んでいる実感がありますが、スピーディーな展開であっという間に読み終えられます。
『追いつめる』あらすじ
神戸を根城に、巨大な利益を貪る広域暴力団・浜内組。刑事にも賄賂を渡すなど、巧みに摘発を逃れてきた浜内組に手を入れるべく、県警本部長から極秘裏に捜査を命ぜられた志田部長刑事は、追跡の過程で同僚の乗松刑事を誤射してしまう。
自責の念に駆られた志田は辞職し、植物状態で入院中の乗松の妻に退職金も差し出す。妻子とも別れてすべてを投げ打った男と浜内組との、追いつ追われつの攻防が始まった――。
なぜ手にしたのか? 読後感は?
『新宿鮫』などで知られるハードボイルド作家の大沢在昌さんが、生島さんから多大な影響を受けた話は有名なようです。
大沢さんはメディアでたびたび生島さんとの「なれそめ」について話しており、『追いつめる』を少年時代に読んで生島さんにファンレターを送ったエピソードが個人的に好きでして。ずーっと読みたかったのです。
が、むかしの小説なので、なにしろ書店にないし、ブックオフでも見かけない。
で、ブックオフオンラインの検索で手配し、入手しました。図書館で借りてもよかったんだけどね。
読後感は意外なほどドライで、かなりヘヴィな物語だろうとの予想は当たらず。それゆえ一度開いて読みだしたら止まらないほどで、読み終わるのが惜しかった。
物語の半分以降は、わざと時間をかけて慈しむように文章を追ったほどです。
読んでいて驚くのが、実在する暴力組織や実際に起きた抗争事件が明らかにモデルになっていること。大丈夫だったのかな。
その辺りに興味ある人や、ノンフィクションを読んだことがあるなら、すぐわかるはずです。
「沖冲仕」(港湾作業員のこと。ご丁寧に「アンコ」なんてルビまで振ってある)や「三国人」など、差別語や不適切表現が出てくるところに本作の時代を感じます。
主人公の志田を取り巻く女性たちは艶めかしく、それでいてキッとしていて、絵になるんですよね。
映像化したら誰が演じるのがふさわしいかなと妄想するのもまた一興。
実際、本作は1972年に田宮二郎&渡哲也の共演で同名タイトルの映画(舛田利雄監督)に。三橋達也、仲代達矢が志田役でテレビドラマ化されたほか、最近ではVシネにもなっています。
田宮二郎の志田刑事、観たいなぁ。
まとめ
ハードボイルドであり、娯楽小説としても読み応えある作品です。多少時代がかっていますが、さほど気になりません。筋が面白いので。
個人的には神戸が舞台で、実在する「トアロード・デリカテッセン」や北野町、新開地などが舞台として出てきたのには気分が盛り上がりました。
確かに絵になるもんねぇ。