新宿・末廣亭。柳亭市馬さんがトリを務める8月上席夜の部。市馬さんの演目は「竹の水仙」でした。江戸時代の彫刻師で、日光東照宮の『眠り猫』の作者とされる左甚五郎の話。元は講談のようですね。
汚い身なりで旅籠に長逗留を決め込む氏素性不明の男に、旅籠の主人は宿代の支払いを迫る。「金はない」という男だが、近くの竹藪から竹を切ってこいという。その竹で細工を作った男は、主人に「軒先にこれを飾って『売り物』とでも札を付けておきなさい」。やがて通りかかった大名行列の殿様がその竹細工をめざとく見つけ、途方もない高価でお買い上げ。殿様はそれが名人・左甚五郎の作とすぐ分かったようだ。一転してホクホクの主人はこの周辺の竹藪は全部買い占めますから、明日からも彫り続けてねと素性不明の男=左甚五郎を引き留める。
上述は市馬さん版でしたが、「竹の水仙」のサゲはいろんなパターンがあるようです。こういう人情噺、いいですね。正体不明の男が実は凄腕だったという話は、あらゆるフィクションでおなじみですが、スカッとする話と人情味あふれるストーリーのミックスは、聴いていていい気分になれます。
僕が見た8月5日は「中日」で日曜日でしたが、もう少し入ってもよいのではといった感。日曜の夜の回ですから、まぁこんな感じでしょうか。末廣亭はなかなか来られませんが(すでに終演後という時間帯に前を通ることが多い)、いかにも寄席という情趣は、東京の寄席ではここが一番ではないでしょうか。
なにしろ畳張りの桟敷席があるのがうれしい。あんよを伸ばしてリラックスして過ごした夏の夜の寄席でした。
終演後。西日本豪雨の義援金の募金箱を携えて圓太郎さんたち噺家が入口に立っています。これ、上野鈴本でもそう。高座を終えた直後の市馬さんまで出てこられて、観客と写真撮影にも応じてくれるなど、すごいサービス(僕もちゃっかり撮ってもらっちゃった)。お疲れだろうに、ほんとうに頭が下がります。わずかですが、チャリンと入れてきました。