新作落語の雄、林家彦いちさんはアウトドア派であり、カメラ、空手にも腕におぼえありの噺家です。その彦いちさんが2004年に小学館から出した『楽写』を、2011年に文庫化した『楽屋顔』をようやく読みました。書店になかなかなくて、探してしまった。
タイトルのとおり、彦いちさんが高座に上がる前後の芸人さんたちの楽屋での表情を撮ったもの。彦いちさんが前座時代から撮り続けていた写真が約170点超、キャプションとともに添えられています。それだけに今こうして見てみると、皆さんとても若い、若い。
柳家花緑さんの目線写真もあれば、前座時代の春風亭一之輔さん(前座名・朝左久)の姿あり。静かに出番を待つ三遊亭圓歌さん、談笑する柳家三三さんにペペ桜井さん、真打昇進披露にのぞむ直前の柳家喬太郎さんなど。
三代目圓歌さんだけでなく、八代目橘家圓蔵さん、四代目桂三木助さんなどの亡くなった人、大空かほりさんのように引退した人の写真も。時代の流れを感じさせます。
高座にあがる前の張り詰めた一瞬、かと思えば馬鹿っぱなしで盛り上がる風景。緊張と緩和のバランス。どの人の写真もファンが決して覗くことのできない表情を見ることができます。彦いちさんは相当さりげなく(ときに存在感をあえて消す努力をして)パチリとしているだろうことがわかります。
目線をくれる人にも、撮るほうにも作為がないんですよね。
巻末には彦いちさんによる「楽屋な日々」という短編エッセイが9編(うち文庫版書下ろし2編)が収められています。非常に興味深いのは鈴本演芸場の裏側を鳥観図で表した「楽屋大図解」というイラスト。えらい人から前座さんまで座る位置、座布団の配置まで描かれています。
高座での真剣勝負もさることながら。こうした仲間内、同業同士の貴重なやり取りの瞬間を表した写真、撮れる人にしか撮れませんね。すべてのモノクロの写真から、いろいろなことを想像してしまいます。
写真は2018年の落語協会のお祭り「謝楽祭」(於湯島天神)で。このブログ更新の翌日に、彦いちさんをつかまえてサインをいただきました。ありがとうございます。あ、この本の続編のリクエストをするのを忘れてしまった。