とりわけシングルモルトウイスキーは、「どれ一つとして同じものがない(樽の違いや熟成環境で微妙に異なる)」といわれる嗜好品ですが、最近はオフィシャルボトルであれば品質に極端な差を感じたことはありません。
が、シングルモルトウイスキーのなかでも「シングルカスク」となると、ちょっと話は違ってきます。シングルモルトは単一の蒸留所で造られるウイスキーで、製造元は通常、複数の樽で熟成した酒を混ぜ合わせてベストのものを世に送り出します。
シングルカスクとは、ひとつの樽から瓶詰めしたウイスキーのことを指します(カスク=樽のこと)。個人的には複数の樽でバランスを取ることなく、樽ひとつのみの個性が表れるシングルカスクは、バクチ的要素が強いなぁと思うのですが。とはいえ上手くハマったときは、より樽の、いや蒸留所のポテンシャルを垣間見る気がして気分がいいものです。
またシングルカスクは、加水せずに瓶詰めする「カスクストレングス」、濾過処理しない「ノンチル(フィルタレーション)」、無着色の「ノンカラーリング」といった、ウイスキーの生のままの香りや味わいを楽しめるバリエーションも珍しくありません。特にボトラーズボトルでよく見かけますよね。
前置きが長くなりましたが、その個性を味わってみようという「シングルカスクで楽しむ6地区のモルトウイスキー」講座に参加してきました。講師はウイスキー文化研究所認定ウイスキープロフェッショナルで、同研究所ウイスキー検定のシングルモルト級師範の根本毅さん。知識の宝庫のような方で、その体験談を聴いているだけで面白いんです。3年前にスコットランドのハイランドにある蒸留所探訪にご一緒したのが縁で、今回ご相伴にあずかることができました。
今回いただいたのは、冒頭アイキャッチ写真の6銘柄。以下個別にメモします。
1. Glen Grant(グレングラント)2003-2017 13y 57.6% Distillers Limited Bourbon Cask
スペイサイドのローゼス地区にある、グレングラント蒸留所のリミテッドボトルです。グラントといえばエイコーンのボトルが素晴らしく、その記憶がよみがえってきました。ことグラントについていえば、個人的にオフィシャルの定番品よりもカスクストレングスのほうが断然好み。華やかでハチミツのような香り、味わいは麦っぽさが表れていて、昼酒としても最高です。
2. Bladnoch(ブラッドノック)1980 23y 54.1% Kingsbury Bourbon Cask
ローランド地区。2017年に創業200周年を迎えたスコットランド最南端の蒸留所です。閉鎖や倒産の憂き目を繰り返しつつ、2015年にオーストラリアの実業家が買収し、息を吹き返しました。その際に設備一新し、リカスク(樽の原酒を別の樽に詰め替える)を行っているとか。どっしりしていて溶剤や化粧品のような香り。味わいは甘さ優勢で、マラスキーノチェリー、チョコレート。
3. Pulteney(プルトニー)2005-2017 12y 61% Distillers Limited Bourbon Cask
ハイランド地区。そのむかし欧州最大のニシン港として栄えたウイック港の高台に蒸留所があります。香りはレモンケーキ、アーモンドキャラメル。ミルクケーキのような柔和な味わい。
4. Glen Scotia(グレンスコシア)1992-2016 25y 51.3% Bourbon Cask
キャンベルタウン地区。ハイランドに蒸留所を持つロッホローモンド社がグレンスコシアと同じグループになったことで、安定的に稼働していなかった設備を改修し、現在2000年以降に蒸留した原酒を用いたオフィシャルボトルがリリースされています(そういえばロッホローモンドとボトル形状が似ている)。こちらは、それよりも少し前の世代の原酒によるもので、砂場とスコップを彷彿させる香り。味わいはもろに塩気とピートを感じさせます。
5. Highland Park(ハイランドパーク)18y 56.4% American Oak Butt
区分ではアイランズ。オークニー諸島メインランド島にある蒸留所のうちのひとつ(もうひとつはスキャパ)。今回いただいたもので唯一体験済み。香りはオークと土っぽさ、味わいはオレオクッキー、湯で溶いたココア、ワインで漬けたドライプルーン。
6. Bowmore(ボウモア)1997-2015 17y 56.5% Refill Butt Ex Sherry SMWS 3.238
おなじみサントリーが所有する、メジャーなアイラのブランド。スコッチモルトウイスキーソサエティのボトルです。当たり前ですが、現在のボウモアと全く異なるディープな味わい。アンチョビ、ピーナッツ、ピートなどが顔を覗かせては引っ込みの繰り返し。順番的に、こちらが最後で大正解。その後「1」に戻ると、もはや空白地帯にいるかのような感覚に襲われました。
というわけで、貴重な2時間を体験できました。個人的には、1のグレングラントと3のプルトニーが好み。自分がバーボン樽好きと再認識しましたが、バーボン樽だろうがシェリー樽だろうが、若かろうが古かろうが、良いものは良い。見た目のスペックに惑わされることなく、毎度毎度、自分の目と鼻と舌で確かめていきたいなと思います。
@Bon Vivant(ボン ヴィヴァン)