メーカー、輸入商社、量販店などベンダーにせよ、愛好家などのユーザー側にせよ――。今のご時勢、ウイスキーといえばシングルモルトがまず第一に語られます。この潮流は、次々に新しいラインナップが供給される意味で、ありがたいと思う反面、その希少性や、投機的な要因による価格高騰を鑑みると、手放しで喜べないのが正直なところです。
早い話、ぶっちゃけ「高い」んですよね、特にモルトは。そういうご時勢だからこそ、もう少しブレンデッドウイスキーに光が当たっても良いと思います。
こんなことを考えたのは、11月2日のウイスキー講座で、レアなブレンデッドスコッチをいただいたので。主宰・講師はウイスキー文化研究所認定ウイスキープロフェッショナル・根本毅さん。今回(第15回)のテーマは「バランタイン17年のキーモルト&グレーンウイスキーを楽しむ」です。冒頭アイキャッチ写真の、エクセレントなスコッチをいただきました。以下メモ書きします(あくまで個人的な主観です)。
バランタイン(Ballantain)17年 43%
- 香り…柔らかく甘い。シロップがけフルーツ乗せパンナコッタ。
- 味…辛みががったアタック。ミルクチョコレートにコンポートから、終盤にかけてリッチな甘さに。
あら? なんか知ってる17年と違うような……?と思いきや、2010年前後流通品だそう。見ればわかりますが、ボトルのデザインが違いますね。根本さんの「コクがあって、トロッとした」との表現に納得。たかだか約10年前のもので、これほど違うとは。そりゃオールドと今では、同じ土俵では語るのが難しいわけですね。
グレンバーギ(Glenburgie)15年 40% OB
- 香り…ホットミルク、洋梨、コケモモジャム。保税倉庫の中にいるような古樽っぽさも。
- 味…ライトボディ。アーモンド、水あめ、ジンジャーウォーター。マシュマロなどのソフトな甘さ。
スペイサイド。銘柄初のOB。バランタインの心臓ともいえるキーモルトで、樽はアメリカンオークです。ピートはなく、ひじょうに軽いのですが、いろんな味わいが飛び出す複雑さ。「埃っぽい」と表現した同席の方に1票。確かに、嗅いでいると暗い倉庫の中にいるような感覚があったんです。
ミルトンダフ(Milltonduff)15年 40% OB
- 香り…南国風の温かさ。バニラアイスクリーム添えのメロンと、生けたてのユリの花。
- 味…ココナッツウォーター、洋からし、小魚アーモンド。後半に絞りたてブドウの果皮。
スペイサイド。こちらも銘柄初のOBで、樽もアメリカンオーク。バーギと見た目のスペックは同じながら、こちらの酒質のほうはやや重みがあります。樽のバックボーンなのかなと思いますが。
スキャパ(Scapa)16年 40% OB
- 香り…花を添えたシリアルミルク、とうきび、バター、理科の実験室。
- 味…粘り気のある舌ざわり。ミルクケーキ、薄いシナモンシュガー。
アイランド。この16年は終売で、現在は「スキャパ スキレン」という後継銘柄がおなじみです。スキレンのほうはマラスキーノチェリーのようなインパクトがありますが、久しぶりに16年を飲んで、なんとまぁ優等生的なモルトよ、と嘆息……。シナモンもあるし、ハチミツっぽさも無きにしも非ず。隠れたり、しゃしゃり出たり。ツンデレでくぐもった、どっちつかずこそ16年の個性だったと思うのです。今のスキレンとは、全く異なりますね。
グレントファース(Glentauchers)1991-2009 43% Gordon&Macphail
- 香り…主張あり。海岸線にほど近い草原のいるかのような爽やかさ、
- 味…スイートでソフト。やや薄いようにも感じたものの、柔らかく飲みやすい。
今回の6本飲み比べで、正直最も特徴が捉えにくかったのが、このグレントファース1991。何度か行き来しましたが、結局具体がまとまらず。グレントファースは個人的に大好きなのですが……。最初に飲むか、もう少し多く飲むか。うーむ。
ストラスクライド(Strathclyde)1989年蒸留 24年 46% Cadenhead
- 香り…ビスケットのような粉っぽさ。もみ殻。遅れてマラスキーノチェリー。
- 味…ひじょうに粘性のある舌ざわり。穀物っぽさの後に杏仁豆腐、チェリー。
今回唯一のグレーンスコッチです。バランタインはモルト40種、グレーン4種から成立しています。このストラスクライドは、シーバスリーガル、バランタインなどにグレーンを供給している蒸留所。日本では現在めったに見かけない長熟グレーンは、カクテルのマンハッタンを想起させるような甘さを湛えていました。
*OB=オフィシャルボトル
ブレンデッドスコッチウイスキーの世界シェアNo.2のバランタイン。上記銘柄の所有はいずれもペルノリカールです。
根本さんのテキストでハタと思い出したのですが、海外とりわけ経済発展著しいBRICsや東南アジアでは、ブレンデッドウイスキーがポピュラーなのですよね。販売量でみればシングルモルトは全体の10%、ブレンデッドは90%という厳然たる事実。日本でモルトに夢中になっていると、ここを看過しがち。
シングルモルトが探求心うずく面白さがあるのは言うまでもないのですが、一辺倒にならないようにしないとね。ブレンデッドの魅力だけでなく、ほかのジャンルの酒(たとえばジン、テキーラ、ラムなどなど)にも目を向けていきたいと思います。
根本さん、同席したみなさん、ありがとうございました。また次回。
@Bon Vivant