宝塚歌劇星組の新トップスター、礼真琴さんのプレお披露目公演『ロックオペラ モーツァルト』を観てきました(2019年12月8日マチネ)。ひとことでボーカリスト&ダンサーとしての、礼真琴さんの魅力が詰まった作品。この芝居の比率としては、7対3で歌のほうが多い印象をもちました。
『1789-バスティーユの恋人たち-』などを手がけた作曲家ドーヴ・アチアさんのキャッチーな曲に乗せたミュージカル。ロックオペラという冠タイトルが付いてますが、個人的にはアゲアゲな曲よりも、聴かせ系の叙情的、メランコリックな楽曲のほうが好みです。
主役はなんといっても礼真琴さん。この作品では彼女がセンターで独唱を始めると、ミュージカルを見ているというよりも「マニッシュな雰囲気で観客を引き込むボーカリスト」のような雰囲気。なんというか、礼さん主演のミュージカルではなく、礼さんのソロコンサートのような印象をもちました。それくらい、歌が際立っていた。
けれども、観ていて感じたのは、まだ100%出し切っていないんじゃないかと。無論それは手抜きと力加減を言っているのではなく、彼女の実力、多面性はこんなもんじゃないだろうと。ところどころ振り切っているところもありますが、彼女が全編で爆発したらどうなってしまうのだろうというオソロシイ期待感を抱いた始末。
割合としては少なかったダンスでも、彼女が踊り始めると、突如ステージが前衛劇のように。モーツァルトの苦しみを表す場面でのそのダンスは、キレキレなどという言葉では失礼に当たりそうですね。柚希礼音さんを彷彿させるものもあり、役のアプローチにもがき苦しむ礼さんその人の内面が見えるかのよう……。
相手役の恋人コンスタンツェを演じる舞空瞳さんも素晴らしく、この二人をオペラグラスで追うのは忙しいやら、楽しいやら。舞空さんと小桜ほのかさんの娘役二人によるハーモニーも見せてくれます。圧巻は1幕ラスト(第8場 B)。礼さんの独唱の背景で、モーツァルトの心情をバレエで表す場面などは、場内が静まり返り、観客が息をのんでいるのがわかるほど。今後の作品のコンビぶりが待ち遠しいかぎりです。
それにしてもモーツァルトといえば、個人的には小池修一郎さん演出で井上芳雄さんが演じた東宝ミュージカルが思い浮かびます。これほどの天才を演じる人は、その実力やバックボーンがしっかりしていないと、観客に「この人がモーツァルト」だという説得力を抱かせるのは難しい。
だから井上芳雄だし、礼真琴なわけです。他の人でもこなせるにはこなせるのでしょうけど、観客を納得させるには難しいかもしれません。
さて、東京公演の会場は、池袋の東京建物Brillia HALL。東京・豊島区が力を入れて宝塚歌劇を招聘し、こけら落とし公演となりました。3階席から観たのですが、残念なことに転落防止のためなのか、目線の高さに柵があり、視線が遮られてしまいました。3階席からステージを観るにはかなり下に目を向けざるを得ず、なぜこのような設計にしたのか謎です。これは劇場側に改善を求めたいですね。