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【演劇】イキウメ『ずれる』:あるべき位置に「もどる」

イキウメ『ずれる』

ネタバレなしで振り返ります。

舞台は内陸の地方都市の、現代建築のようなリビングの一室。隣町が豪雨によって被害が出てからというもの、クマやイノシシが宅地に入り込み、それらの咆哮や姿を目に耳にすることが徐々に増えていく。

精神科療養施設から帰ってきた弟(大窪人衛)を心配する経営者の兄(安井順平)は在宅勤務を増やす。

弟はネットで知り合ったという怪しげな環境活動家(盛隆二)を引き入れ、幽体離脱を試みるうえ、動物解放などと言って兄を困らせる。
兄が雇った秘書兼家政夫(浜田信也)の紹介により家に呼んだ凄腕の整体師(森下創)は、兄の身体を診て心と身体の「ずれ」を正そうとする。

混沌とする人間模様とストーリー、座組5人の緩急

事業を親から引き継いだ兄は、反抗的で問題を起こしてばかりの弟への愛情はあるもののどこかドライ、半ば強引に物理的に解決させようともがけばもがくほど、泥沼にはまり込んでいく。
家に居着いてしまう活動家や整体師、復讐心を秘めた秘書の真意が読めない行動により、物語は次第に奇怪な様相を帯びていきます。

土着・地縁・環境など、目に見えない説明不可能なものを物語にする主宰・前川知大さんの筆と演出が今作も冴え渡っています。

隣町の名は「金輪町」、整体師の名は「時枝悟」と過去作との連動にニヤリとしつつ、実際に作中でも笑かす場面が随所に。
緊張と緩和の緩急は客演なしでイキウメの役者5人のみのストレートプレイに徹することで、より顕著になったようです。

場面転換は暗転のみで、引き算を極めたかのようなワンシチュエーションの舞台もスリリング。鑑賞した回は円盤用の?カメラも入っていましたが、ミニマムさは映像にしても遜色なく鑑賞できるかも。

まとめ

この結末は「ずれ」を正された兄が、迎えるべくして迎えた結果なのだ、と。違和があったのは周りではなく自分由来のズレによるもので、ズレを見て見ぬふりをして、それが正常に戻った結果があのラストとも取れます。

これというヤマ場がないのに、最後の最後まで固唾を飲むようなストーリーテリングに魅了されました。
本作を最後にしばらく定期公演を休むイキウメですが、年2回も毎年新作を出し続けていたのだから無理もない。インプットを経た前川さん、劇団の新たな世界に期待して待つことにします。

2025年5月24日18時公演 シアタートラム

この記事を書いた人

hiroki「酒と共感の日々」

hiroki

Webの中の人|ウイスキー文化研究所(JWRC)認定ウイスキーエキスパート|SMWS会員|訪問したBAR国内外合わせて200軒超|会員制ドリンクアプリ「HIDEOUT CLUB」でBAR訪問記連載(2018年)|ひとり歩き|健全な酒活|ブログは不定期更新2,000記事超(2022年11月現在)|ストレングスファインダーTOP5:共感性・原点思考・慎重さ・調和性・公平性