佐治敬三著『新洋酒天国 世界の酒の旅』(文春文庫、1986年4月25日第1刷)を読了。
サントリー第2代社長を務めた佐治敬三(1919-1999)自身が世界中の銘酒を巡る旅を描いた紀行エッセイです。
ご当地に行ってみたくなる旅情をそそるよりも、知識を得ながら、作者の旅に同行しているようでもありました。
内容
佐治さんの発案によって1971年(昭和46)に創刊された『SUNTORY GOURMET』(以下「グルメ」)。その第1刊に掲載された「私とシェリー・ポート」を皮切りに世界各国の酒について佐治さんが毎号執筆(季刊)。本書はこれらの連載をまとめたものです。
フランスのワインからイベリア半島のシェリーとポート、ラテンアメリカのテキーラとラム、中国の紹興酒、ドイツとデンマークのビール、そしてケンタッキーのバーボンに至るまで、多彩な地域の代表的な酒にスポットを当てています。
中国へは関西財界を代表して訪中団を率いて、スペインへは作家の開高健氏を伴って技術提携契約を結んだプレデコ社を訪問、ドイツとデンマークへはビール事業進出にあたって。
ほとんどが仕事にかこつけてのもので、ときに交渉の様子も仔細に記された場面もあります。
が、いちばん魅力的なのは佐治さん自身による美酒美食の体験記です。
なぜ手にしたのか? 読後感は?
どこかの古本屋さんで見つけて購入。むかしの方であれば、柳原良平さんの挿絵、表紙イラストも目を引くことでしょう。
軽やかな紀行エッセイを想像していたのですが、内容は「酒と文化をめぐる世界史の歴史書」といった趣。
至るところで佐治さんの博覧強記っぷりが炸裂しています。
そのあたりは「あとがき」で佐治さんも
前回の「洋酒天国」と比べると、ペダンチックなところが自分でも気になるが、「グルメ」という刊行物の性格上、やむを得なかったこととお許しをいただきたいと思う。
と認めています。
ただ、体験をめぐるディテールの記載は、ほんとにすごい。本家のルポライターやノンフィクション作家も顔負けの表現です。
- 酔っぱらって前後不覚に(それを上回る酒豪ぶりを見せつける、同伴者の開高健氏)。
- 冬のケンタッキーで、バーボンウイスキーの名家ブラウンフォーマン社創業100周年イベントのゲストに招かれたくだりでは、禁酒法という過去の愚行に激しい怒りをぶつける。
- ビールの本場ドイツでは、ヴァンゼーで期待からほど遠いピルゼンビールに遭遇したこと、しかし西ベルリンのホテルのレストランで「またたく間に1杯のグラスをあける」真正ピルスナーに出会ったこと。
上記はほんの一部で、全編を通して同伴者として居合わせているかのような気分にさせてくれます。
読んで得たこと
- 世界各地の酒の知識と歴史
- 体験に勝るものなし
そんななかで、最も魅了されたのは「ラテン・アメリカの酒」の結末で触れているペルーの名酒ピスコ(Pisco)のくだり。
これをベースにしたカクテルを紹介している場面があります。以下引用。
ピスコを用いたピスコ・サワーはカクテルの優品である。
ピスコ 45ミリリットル レモンジュース1/2個分
シュガーシロップ 茶匙1杯 卵白 1個分
を砕氷とともによくシェークして、ナツメグをふりかける。
ブランディをベースとするだけあって、スピリッツにない厚みが感じられる。そのうえ野趣に富んだピスコの香味とレモンがよくマッチした刺戟は快い。かっこうのアペリティフである。これならペルー名物のアンティチョークの五本や六本、何ほどのこともない。
ペルーの夜が、冷ややかにふけていった。
というわけで、読後ピスコサワーを作ってもらいました。
味? そりゃ美味かったですよ。美味いとしか言いようがありません。
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