東京ステーションギャラリーで開催中の『没後90年記念 岸田劉生展』(~2019年10月20日、9月25日に一部展示替えあり)に行ってきました。大正時代の洋画家・岸田劉生のキャリア草創期から晩年の作品まで160点を公開。岸田画伯を知らない人でも、重文の「麗子微笑」は教科書などで目にしたことがあるのではないでしょうか。
岸田画伯が愛娘・麗子をモデルに描いた作品は「麗子微笑」だけでなく、多数あります。本展には後期の展示替えを含めると、15点以上も公開されます。
なかでも「麗子洋装之像」という絵は初めて見ました。麗子といえば赤いおべべを着て、うっすら笑みを浮かべている絵柄が思いつきますが、こちらは珍しく洋服を着たバージョン。よそ行きというか、おめかしした格好がとても愛らしい。
正座で長時間モデルを務めた麗子さんの回想談が紹介されていましたが、ほんと健気だなぁと。普通なら耐えられないと思うけど、画家の娘ゆえの遺伝子というか使命感みたいなものを、幼いながらに感じ取っていたのでしょうか。
また岸田画伯は、麗子像と同じくらい、自画像も多く描いています。それがまた今でいうセルフィみたいなんですよね。中には人に贈った自画像もあるそうで、このあたりの意識はすげぇなと思います。「キミが忘れないよう、おれの肖像画を飾っとけ」って感じでしょうか。
個人的には体を壊して画風が変わった晩年の作品よりも、写実的な油彩のほうがすてきです。なんというか、大正当時の空気、質感も再現しているような、そんなリアルさが岸田の作品にはあります。
なによりも対象への愛。数多くのポートレイトから感じるのは、まさにそこです。あぁ、ほんとうに人が好きなんだなと伝わってくるんですよね。画には明るさよりも静謐さが際立っていますが、モデルへの愛情は雄弁。岸田の作品はそんな画だと思うのです。