静嘉堂文庫竣工100年・特別展『画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎「地獄極楽めぐり図」からリアル武四郎涅槃図まで』(2024年4月13日〜同年6月9日/静嘉堂@丸の内)鑑賞。
河鍋暁斎の絵画目当てで足を運んだものの、国宝の茶碗「曜変天目」に最も感じ入りましたね。
絵師・河鍋暁斎(1831-1889)はよく知られていますが、松浦武四郎(1818-1888)という人の知名度はどうなんでしょう。
探検家で好古家、著述家にして自らも絵師、まさに今でいうマルチタレントの武四郎は、北海道にひとかたならない思い入れがあったよう。
「北海道(当初は北加伊道)」の名付け親でもあり、アイヌ文化に深い敬意を表し、蝦夷地を6度も探査するほど。
展示フロアのホワイエには、北海道の詳細な地形とともに、蝦夷地の地名を記した『東西蝦夷山川地理取調図』(1859)の拡大版が(原本の一部は第1展示室に)。
武四郎と暁斎の交流は明治初期から始まったらしく、ともに天神を信仰した面からも気脈が通ずるところがあった様子。
晩年に葛飾北斎の門人となって支持した高井鴻山のようなパトロン的存在というよりは、もっと近しい間柄だったと想像。
奇想と細緻を極めた『武四郎涅槃図』
それを感じたのは本展の目玉である『武四郎涅槃図』(1886)。武四郎が昼寝する自分の姿を情景に見立て、暁斎に描かせた一幅。
制作の間にも武四郎は暁斎に対し、新たに入手した古物を描き加えるように指示したとのことで、暁斎もウンザリだったかもですね。
完成まで足掛け6年かかったというのもうなずけます。
この作品自体も面白すぎるのですが、絵に描かれた、首飾りや石仏など武四郎愛玩の品々を同じ空間で展示する趣向。
ひとつひとつの品がどこに描かれているのかを解説した図録がギャラリーショップで売られているくらいです。
展示を締めくくる『曜変天目』に感動
この企画展と直接関係のない展示でしたが、展示室の最奥に鎮座していた『曜変天目』は、食い入るように見ました。
12〜13世紀南宋時代の茶碗で、三代将軍家光から春日局を経て、後の淀藩主・稲葉家に伝来したというもので、そのストーリーにもロマンを感じてしまう。
これを目の当たりにしたとき、「こりゃ宇宙じゃん」とアゲアゲした心持ちになりましたが、実際にそう評されているそうで、奥行きのある絵柄には草間彌生の作品を想起しました。
「ほんとに本物かいな」と思うほど、状態が良いのも素晴らしい。
世界中で現存する曜変天目は、日本にある3つのみで、他に京都・大徳寺龍光院、大阪・藤田美術館所蔵のひとつずつ。
いずれも国宝指定だそうです。
まとめ
いやはや見事な展示でした。
河鍋暁斎の『地獄極楽めぐり図』(1869-1872)はじめ、『武四郎涅槃図』周辺の品々、さらに『曜変天目』まで、これだけの品々を一堂に会せるのは、三菱のなせる業かと。
重文である明治生命館に美術館を開設したのは、静嘉堂文庫創設130周年に当たる2022年だそうで、まだできたばかり。
広々とした空間も心地いいものでした。