上野鈴本演芸場の年末特別興行は講談・琴調先生のトリ。毎年恒例で15年目の今年は「暮れの鈴本 琴調五夜〜周五郎 一話読み終え ぬくめ酒〜文芸講談特撰」と題したネタ出しです。
太神楽曲芸 翁家社中
間抜けの泥棒『安政三組盃』より 田辺いちか
楽しい山手線 古今亭駒治
寛政力士伝~橋場の長吉 宝井琴凌
粋曲 柳家小春
矢矧橋『太閤記』 一龍斎貞橘
お仲入り
ぜんざい公社 柳家権太楼
紙切り 林家楽一
太宰治『貧の意地』 宝井琴調
初日は太宰治の短編『貧の意地』をベースにしたものです。原作は『お伽草子』(新潮文庫)に所収されています。
『貧の意地』あらすじ
品川に住む極貧の浪人・原田内助は、年末の掛取をしのぐべく親戚の医者から10両もの大金を借り受ける。思わぬボーナスが懐に入り、原田は友人たち7人を呼んで雪見の宴と称する座敷宴会に招く。
だいぶ酔いが回ってきたころ、原田は座興に10両を回覧する。お開きの際に一巡した金子を回収しようとすると1両足りない。一同、身の潔白を訴えるも、短慶という坊主が運悪く1両持っていた。
行灯の下から1両が見つかり安堵するも束の間、今度は原田の妻が重箱の下に貼り付いていたと1両携えてきた。
一同の誰かが短慶のピンチを救おうとした行い。原田は名乗り出るよう呼びかけるが、かえって名乗りにくくなるのは自明。そこで原田は重箱の蓋に1両載せて玄関に置き、持ち主に黙って持ち帰ってもらう妙案を思いつく。さて、小判はどうなったのか。
琴調さんが人情味引き立つ物語に
原作は貧乏浪人同士のカネのやり取りが絡むだけに、妙にリアルで生々しく、太宰もよくこんな話を書いたよなという生ぐささ。ほぼワンシチュエーション、行灯のもとで展開される物語は1両足りずに緊迫するくだりからサスペンス的にうねります。
太宰のコミカルな作品を作家の森見登美彦がリコメンドした作品集で原作を読んだのですが、この『貧の意地』については笑えんぞと。
ですが琴調先生が語ると、原作よりも増して人情の味わいが。主人公の原田の好漢ぶりと、夫に負けず劣らずお人好しの妻のコンビも講談で際立ちます。
自分の作品の講談化を太宰はどう思うだろう。
ぜんざい公社 柳家権太楼
通常は色物さんの休憩明け=クイツキに、噺家が顔付けされるのも今席ならでは。この日は権太楼さん。講談を聴きたくて最初から楽屋にいらしたそう。
しかも年明けのTBS『落語研究会』で、局側からのリクエストで30年ぶりくらいに披露するという『ぜんざい公社』を「今日は稽古」とかけてくれました。
ぜんざいを食べたくて、上野鈴本近くの「ぜんざい公社」に入った男。だがそこは注文して終わりではなく、書類や判子が必要な処でーーという噺。
珍しい噺をライブで聴けて得した気分です。
余白に
今席のタイトルは「一話読み終え ぬくめ酒」との副題が付いています。いい話を立て続けに聴けて、帰り道の寒風が心地いい。燗酒でも飲みたくなるホクホクした気分。
鈴本年末の講談企画に初めて伺いましたが、客層も落ち着いていていい感じ。楽一さんの紙切りのお題リクエストは「宝船」「デコピン」「琴調先生」だもん。
「デコピン」は、まくらで大谷翔平の話題を振った権太楼さんからの流れで、こういうのもまた寄席っぽくていい。
毎年来てみたいなぁ。