神奈川近代文学館で開催中の特別展関連イベント『坂口安吾展記念朗読会』を観てきました。
朗読会で読まれるのは、安吾によるファルス『風博士』(1931年)と、自伝的小説『風と光と二十の私と』(1947年)の2作。
本の読むのは長塚京三さん。ミドル世代にはおなじみの俳優でしょう。
2024年の東京国際映画祭主演男優賞など3冠『敵』(吉田大八監督)で話題になったばかり。
サントリーのCM「恋は、遠い日の花火ではない。」(1994年)とか、東海テレビの昼ドラ『華の嵐』(1988年)のマムシ男爵とか。古いか。
個人的には長塚さんって、悪役の印象が強いんだよな。
もひとつついでに個人的な話。長塚さんは、むかし自分が編プロの記者時代にドラマの会見で見かけたことが何度かあって、実物を見るのは当時以来。
この人の演劇を観られなかったのが残念だなぁ、『Defiled -ディファイルド-』とか観たかった。
さて、袖からスッと登場した長塚さんは、グレーのスーツにネクタイ、白のワイシャツと、ダンディそのまま長塚京三のいで立ち。
「秋の日差しと冬薔薇を愛でていました。昼間からの朗読は真っ裸になるような……。でも冬の薔薇が、この難しい話を読む勇気を」といった挨拶から『風博士』へ。
若輩者の分際でたいへん失礼ながら、長塚さんの朗読は「上手い」のひとことに尽きます。
淡々と読みつつ、強弱とメリハリがあって、しかも全然つっかえない。
つっかえないのはプロだから当たり前? 今や「原稿を読む」スタイルで、アナウンサーはおろか、淀みなく台詞をこなせる俳優さんはどれくらいいるんですかね。
なにより聴いていて心地いい。
会場で(極端に大きな音でないものの)いびきをかいていた人がいたことが証で、要するに「耳心地」いいんですよね。
休憩を挟んで読まれたのは安吾のエッセイ風の小説『風と光と二十の私と』で、ユーモラスな場面には会場から笑いも。
「風と光と~」は長い物語なので途中まで。
長塚さん、読後、余韻に浸るかのように手元の本に目を落としながら。
「小説は必ずしも朗読されることをもとに書かれてはいないですが。私の声を通して一筋の風となって皆様の足元に届けば、何よりのことです」と。
あっという間の1時間ちょっとで、ワシも余韻をかみしめつつニコニコで会場を出ました。
しっかし長塚京三という人はジェントルゆえに、無頼な安吾とはややミスマッチな感じもしましたが、共通項がありました。
安吾は東洋大の印哲科時代にアテネ・フランセでフランス語を習得しているし、長塚さんは早大一文演劇科中退後にパリに留学しています。
しかも神奈川近代文学館の現館長は荻野アンナさんですから、これは狙ったキャスティングだったのでしょう。
2025年11月8日 神奈川近代文学館 展示館ホール

