会期後半、『没後五0年 鏑木清方展』にようやく行ってきました(〜2022年5月8日、東高国立近代美術館)。
いちばんの目当ては、アイキャッチ画像の「築地明石町」で、近美2度目の公開です。
前回44年ぶりの公開ですっかりこの絵にやられてしまい、絵の前やら離れてやら15分くらい見入ってしまったのを覚えています。
なぜ、この見返り美人が好きなんだろう。
物憂げで疲れた眼、夜会巻きに近い髪のまとめ方、袖をつかむ左手、内股の足元と朝顔、背後に朧げに見える佃の入江。
美人画として素晴らしいのはもちろん、どこか儚さがあり、この女性がどんな人で、靄の中を歩いているのはどんなシチュエーションでなのか、想像力をかき立てるから魅かれるんでしょうね。
前回はモデルとなった江木ませ子さんの肖像写真も展示されていて(今回の展覧会はなし)、その写真と実際の絵のイメージが一致しなかった。
要は似ているようで似ていない。
鏑木は江木さんにあくまでインスピレーションを抱いたのであって、写実の必要はない。
作品から世俗を垣間見てはいけないのです。
この辺が「築地明石町」が白眉たる所以なのかと思わされます。
常設で見たいとは思わないがたまに会いたくなる、公開されるたびに見に行く。
そんな絵です。
今回は他にも発見が。
昭和天皇即位を記念して三菱財閥岩崎家が依頼した献上屏風絵『讃春』は、皇居前広場の松と隅田川にかかる清洲橋をモチーフとしています。
清洲橋は今の姿とほぼ変わらないし、そのたもとに暮らす水上生活者の日常になんだかホッとするものが。
かつてあった寄席の日常を切り取った『京橋金沢亭』は、人々の交流の場だった様子がありありと。
落語という現代人も楽しんでいる娯楽が、100年以上も前の人も同じように楽しんでいた不思議。
絵を通して当時の人と時間を超えたかかわりが出来たみたいで、なんだかうれしい。
この作品が有名な「三遊亭圓朝像」の隣に展示されていたのも、生活を描いた鏑木の意思を重んじているようで、それもまたよかったです。