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【戯曲】安部公房『友達・棒になった男』:不思議とジワる前衛ストーリー

安部公房『友達・棒になった男』

理解を超えているからこその「不条理」なのだろうけど、安部公房の戯曲『友達・棒になった男』(新潮文庫)は絵空事とはいえぬ迫真で、不条理よりも理不尽を感じてしまう。
日常の延長線上にあるような恐怖譚でもあり、うなされるような悪夢のひとコマのようでもあり。
演劇的(映画的)カタルシスとはドラマティックな脚本や感情の揺さぶりあってこそ得られる――我が身のそんな狭小たる価値観を軽々と打ち破ってくれた作品です。

新潮文庫所収の本作は、表題『友達』『棒になった男』のほか『榎本武揚』の3編で構成。

『友達』(1967)は、ひとり暮らしの平凡な男のアパートに侵入してきた9人家族が隣人愛を唱え、全くの善意の連帯で男と暮らしを共にしようとする話。
赤の他人に押しかけられ、狭い部屋に居座られた主人公が、事態を打開しようと通報した警察に邪険にされ、婚約者とその兄も言いくるめられ、次第に追い詰められていくさまは恐怖しかありません。
でも案外、善意の押しつけって、自分もやってはしまいか。求められてもいないのに余計なことをしてはいないか。
2012年に発覚した尼崎連続変死事件のような実際の事件も彷彿させられましたが、胸糞悪さは自分に思い当たることがあるからなのかもしれません。あぁヤダヤダ。
今なお傑作の誉れ高く、1967年の青年座による初演から、直近では2021年のシス・カンパニーまで公演がなされています。

『棒になった男』(1969)は「鞄」「時の崖」「棒になった男」の三景から成るオムニバスで、タイトルからして、もう、あれですね。
登場人物は女、客の女、そして旅行鞄(!)の3人。実際は旅行鞄に擬態した男です。
第一景の舞台は女の家。客として来ている女友達に、女は夫の旅行鞄を開錠して中身を確かめてほしいと懇願する。物音や声などが聞こえてくる鞄の中には、夫によれば先祖が入っているという。

そこからランキングダウンするばかりのボクサーが試合前のスパーリングからラウンド中に自分がダウンするまでを独白し続ける「時の崖」、駅デパートの屋上から落ちてきた1本の棒をめぐる「棒になった男」へと展開します。
安部公房は「鞄」と「ボクサー」と「棒」を同じ俳優が演じるという縛りを設けており、過去にこの役を井川比佐志などが演じています。
井川さんか、すごいなあ。

『榎本武揚』(1967)は五稜郭の戦いで知られる明治の英傑の物語ですが、作者が安部公房ゆえ、ノーマルな史劇に収まるはずもなく。
いきなり現代の世界でインタビューを受けている榎本に始まり、自分が未来で粗末に扱われていると嘆く、まさかの「夢オチ」の幕開け。
明治新政府に捕えられた榎本とその教えを受ける江戸の囚人たちの暮らす牢に、新選組の浅井十三郎が榎本暗殺を企図して牢屋に入獄してきたことで物語が展開していきます。

これら3作、ホラー的要素もあれば奇想天外なSFでもあり、振り幅ある前衛作品でした。
まったく理解を超越した作品かというとそうでもなく、じわじわくる不思議な読後感を味わいました。
安部公房、全く縁のない作家でしたが、これを機に他の作品も読んでみようかな。

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