坂口安吾(1906-1955)の出生から創作の軌跡、晩年までをハイライトする『没後70年 坂口安吾展 あちらこちら命がけ』(2025年10月4日~同年11月30日、神奈川近代文学館)、想像以上に濃い展覧会でした。
安吾と言えばブレない自分軸に豪放磊落とは裏腹な心優しい一面を覗かせる無頼のアニキであり、斜に構えるでもなく人生の浮沈を怜悧にみる見識の持ち主でもある。
ひとことで語り尽くせないんですね。あえてひとことで言うなら安吾とは「人物」です。
本展は安吾の足跡が時系列で分かる構成。冒頭、有名な安吾の文机と散らばった原稿を再現したセットでは記念撮影可能。おなじみの丸眼鏡も用意されていてプチコスプレもできる趣向です。
展示は万年筆に文鎮、三つ揃いやステッキといった愛蔵品から始まり、原稿や書簡、遺品などが詳細な解説とともに見られます。
内容がかなり充実しているので、じっくり展示と向き合うなら3時間はみておいたほうがいいです。

前半の展示ではスポーツ好きな一面が写真とともに。安吾が身長173cmの関取(三根山)と並んでも見劣りしない体躯の持ち主で運動神経は抜群、くわえタバコでバットを振っている写真がもういかにも。
矢田津世子との悲恋にこちらも痛む一方で、同業者である尾崎士郎との決闘(未遂)の一幕や中原中也から売られたケンカ(未遂)の顛末などは、まさしく安吾。
同じく作家仲間の太宰治や織田作之助との銀座「ルパン」での鼎談で、太宰は「坂口さんの最近の作品には肉体性がちつとも出てない。ホームをつくりなさい」と批判されたそうで、お前に言われたかないよwって感じだったんじゃないかな。
ヒロポン中毒による暴力沙汰、税務署との攻防、競輪不正疑惑告発事件など、とにかく自分が「おかしい」と思うものについては決して我慢しない。
日々流され、妥協の海に漂う凡人には、だから安吾のような人は未だ明滅し続ける灯台のようでもあるのです。
2025年11月8日 神奈川近代文学館
