1912年の英ブロムリー、春の宵。あるブルジョアの工場主の邸宅。娘の婚約を祝うディナーを終えた一家のもとに、警部を名乗る男がやってくる。
警部はエヴァ・スミスという若い女性が消毒剤を飲んで自殺したと告げ、彼女の死には一同(一家4人および娘の婚約者)が関与していると追及する。
『夜の来訪者』(ジョン・ボイントン・プリーストリー、安藤貞雄訳 / 1947年 / An Inspector Calls)は、じっくり進めても正味2時間もあれば読み終わる推理劇です。
突きつけられた現実を認めようとしなかったり、シラを切ろうとしたりする登場人物ですが、招かれざる客である警部に薄皮を剥ぐようにジワジワ追い詰められていきます。
そして最後の最後で待ち受けるどんでん返し。
単に緊張感だけで構築するのではなく、追及の過程で個々人の人間性をも表出させていくのが奥深い。
エヴァが亡くなった現実は消せず罪滅ぼしもできないと断じた警部は、最後に警句を残して邸宅を後にします。
「わたしたちは、一人で生きているのではありません。わたしたちは、共同体の一員なのです。わたしたちは、おたがいに対して責任があるのです。そして、みなさんに申しあげますが、もしも、人間がその教訓を学ぼうとしないなら、かれらは、火に焼かれ、血を流し、苦しみもだえながら、それを学ぶときがくるでしょう」
(岩波文庫『夜の来訪者』P.125)
プリーストリー(1894-1984)という人は劇作家でありながらエッセイストであり評論家でもあり、生涯で120冊以上の著作を残したそうです。
さらに第二次大戦中の1942年には社会福祉党という新党を結成し(後に労働党と合併)、英国の階級社会や社会的不平等に一石を投じています。
バックボーンを知ると読後いっそう味わいが増しますが、こうした問題をスリラーとしてエンタメ的に提示した才。
もっと上演されればいいのにと調べてみたら、俳優座が1951年に初演しており、当時の警部役は東野英治郎(!)
テレビドラマ版の初代黄門様ですよ。時代を感じるなぁ。
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