人は変節する。変節したその人は傍から見てイヤなもの=当方の言語や理解の及ばない「あちら側」に行ってしまった。
これが持論ですが、その人は別のステージに行ったから変節したようにも見える。最近そうとも感じるのです。
マキノノゾミ作『東京原子核クラブ』(1999、ハヤカワ演劇文庫)は、ノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎博士(1906-1979)の手記をもとに、自らの使命と現実の狭間で揺れる若者を描いた群像劇で、第49回読売文学賞を受賞しています。
『東京原子核クラブ』あらすじ
昭和7年、東京・本郷の下宿屋「平和館」。東大野球部員やピアノ弾き、新劇青年など風変わりな住人が集うなか、理化学研究所の若き原子物理学者・友田晋一郎は論文が海外の研究者に先を越され肩を落としていた。
平和館の娘、桐子との見合いで下宿に現れた海軍中尉・狩野は、理研の研究によって日本が原子爆弾を作れることに気づく。
最先端の研究成果×被爆の現実
第2幕2場、友田の師匠である理化学研究所主任研究員・西田が、世界の原爆研究の現状を問うてきた狩野に対して
「……爆弾いう形であれ原子炉という形であれ、とにかく核内エネルギーを自らの手で解放させてみたいというのが、世界中全ての原子核物理学者が抱いている野望なんだということは知っておいて下さい」(P.187)
と答える台詞は、その後に被爆国となった現実に重くのしかかるし、文明や科学の進歩と照射するとなんとも割り切れない心持ちにさせられます。
このシーンを経て、敗戦と向き合い、それでも友田が学者として生きていく決意と、友田が戦場に散った仲間を弔うふたつを重ねた場面に胸打たれるものが。
2幕冒頭、友田の変節がわかる描写があるのですが、それは年月や研鑽を積んでいる人間なら、避けて通れるものではない。
そんなふうに視野を広げられもしました。
しかもこれを下宿という日常に中に切り取っているのが、もう、ね。
感動させてやろうという作為も巧緻なテクニックも感じさせない。
「神は細部に宿る」といいますが、あくまで自然に、さりげなく、湿っぽいどころか、コミカルですらあるところが本作の粋。
東京国際フォーラム柿落とし公演以来何度もかけられ、直近では水田航生さんや霧矢大夢さんなどの出演で2021年に上演されています。
来年は初演から30年ですから記念の再演に期待です。
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