鈴本演芸場「年の瀬に聴く芝浜と柳田格之進」。昨年2016年は「芝浜」のみでしたけど、今年は「柳田格之進」との演目コンビ。で、隅田川馬石さんの「柳田格之進」を聴いてきました。これが素晴らしかった。二枚目噺家の面目躍如、といったところでしょうか。
馬石さんがトリで演目は人情噺。客席がいつもよりも女子率高いのも、そらそうだ感ありありですね。
大師匠の10代目金原亭馬生、3代目古今亭志ん朝、この2人の父親5代目古今亭志ん生の得意とする大ネタだけに「いつかやらなければ」と馬石さん。とはいえ、師匠の五街道雲助さんは「柳田」が好きでないそうで、師匠に覚えてもらってから稽古をつけてもらったと冗談めかします。馬石さんは自分が出演した映画『落語物語』(2011年、林家しん平監督)で噺家を演じるにあたり、そのシーンで「柳田」をやったのがきっかけで覚えたそうです。なかなかすごいルーツですよね、そりゃ相当な深い縁を感じる演目になるでしょうよ。
「柳田格之進」は元は講談由来だそう。文武に秀でるも清廉潔白すぎるあまり主家を追放された浪人・柳田格之進が、碁仇の万屋源兵衛の番頭徳兵衛からかけられた50両盗みの疑いを晴らす物語。
とだけ端折って書くと、なんだか爽快なリベンジもののようにもとれますが。聴き手は柳田の遭う理不尽な仕打ちをどう思うでしょう。
馬石さんの「柳田格之進」は、
1.柳田の娘は吉原に奉公に出ていない
2.柳田は50両を「家宝である短刀」を売って工面した
3.娘がその後どうなったかには触れず、柳田が碁盤を一刀両断し、番頭と主人を赦すところでさげる
といったところがポイントでしょうか。
馬石さんの柳田は、つまりハードボイルドに徹していて、非常に好みです。帰参がかない出世した柳田が、雪の降る湯島切通坂で徳兵衛と再会する場面。浪人時代とは打って変わって立派な身なりの柳田を徳兵衛は普通にやり過ごそうとするが(身なりだけを見て値踏みし、ろくに顔も見ない町人の心なさが出た場面)、柳田のほうは徳兵衛に気づく。扇子を傘に見立て、右手後方を向いてその劇的な場面を演じる馬石さん。この一人芝居に釘付けになりました。
実際、馬石さんの「柳田格之進」は終始客席が水を打ったような静けさでした。笑いが起きたのはたった2回。あとは「シーン……」。馬石さんの前に出た演者がみな大ウケだっただけに、このギャップがたまりません。
それにしても柳田、重い。寄席で聴くには重すぎる。哀切の一席、たまにはいいけど、本当にたまにで十分ですね。
【12月17日の覚え書き】
・古今亭志ん陽「芋俵」
・三遊亭白鳥「座席なき戦い」
・春風亭一朝「短命」
・三遊亭歌奴「掛け取り」