年に一度、桃月庵白酒さんが四席続ける大手町独演会に行ってきました。「幾代餅」と「宿屋の仇討」以外のふたつは、当日ネタ見せです。季節にちなんだ噺にどれも笑わせてもらいましたが、「幾代餅」を披露したのが意外でした。
演目4席はこちら。
「時そば」(冬)
「幾代餅」(春)
「臆病源兵衛」(夏)
「宿屋の仇討」(秋)
「幾代餅」は奉公人の清蔵と花魁幾代のある意味、身分違いの純愛ストーリーです。かなり似た噺の「紺屋高尾」が人情噺なのに対し、この「幾代餅」は滑稽噺とはいえ人情寄り。滑稽噺しかやらないイメージの白酒さんがこれを選んだのは見どころでした。が、そこは白酒さん、清蔵の恋わずらいをナヨっとした若者像で見せ、かと思いきや、主人に勇気づけられ急に強気になりと緩急自在。
幾代の錦絵を見ただけで一目ぼれしてしまう清蔵。やっとの思いで会いに来た健気さに思わず「こんなわちきでも、もらってくんなんす」と返す幾代太夫。単純にいい話、大好きですね。さんざ旦那衆から口説かれただろう太夫が、清蔵に見せる男気、いや、女っぷり。
全然違う物語ですが、白酒さんの落語を聴いた後で、宝塚歌劇で繰り返し上演されている名作『ME AND MY GIRL』を思い出しました。身分違いの恋を成就させる伯爵家の跡取りビルと下町娘サリーのラブストーリー。ずーっと切ない展開が続くなか、ビルと引き裂かれてしまったサリーがアッと驚く方法で彼と再会するのですが、そのクライマックスで彼女が口にする、
「人は正しい扱いを受けると、心を動かされるのです」
というセリフは観るたびに感動させられます。
幾代太夫も、清蔵の真剣さ、一途さに心を動かされてたのでしょう。……って、あれ? 白酒さんで大笑いするはずが、なかなか考えさせられてしまいました。
この高座中は五輪フィギュアスケートで羽生結弦選手がメダルがかかったフリーの演技中。白酒さんはその辺をしきりにいじり、際どいまくらを連発していました。休憩を挟んだ後半の最初のまくらで、金メダル確定を白酒さんが触れると客席からは拍手が。そんな客席の反応に対し、ひとこと白酒さんが言うという……。この日も切れ味が抜群の白酒さんなのでした。