落語の後は徒歩で東京国立近代美術館に。お目当ては『没後40年 熊谷守一 生きるよろこび』(~2018年3月21日)と題された大回顧展。そちらもさることながら、企画展のチケット(大人1,400円)で「MOMATコレクション」という常設展示が見られるのも楽しみなんです。
美術館のサイトでその展示概要が見られますが、近代の日本美術のハイライトを見ているかのような作品の数々です。13,000点に及ぶ収蔵作品から約200点、教科書に載っていた名画から、知られざる発掘系の絵画まで4階から2階にわたって展示されています(不定期に展示替えあり)。
作品説明にカメラマークのある展示品を除き、写真撮影が自由というのも意外です(観覧されている人の邪魔にならないことが必須。これがなかなか難しいし、作品にiPhoneのカメラを向けるのもためらいが……)。
写真は荻原守衛(碌山)の絶作『女』(1910年)です。荻原が新宿中村屋サロンの主人・相馬黒光をモデルに制作したといわれ、ふたりの葛藤が伝わってくるような悲しい作品です。
17時閉館のため、じっくり見ようとすると夕方から入場したのでは間に合いません。かくいう僕は16時過ぎに入場したのですが、週末の金・土曜日は20時まで夜間開館を行っているため、終盤は駆け足で見て回るということはありませんでした。結局、企画展と合わせて2時間半くらい美術館にいました。
僕は作品の鑑賞はもとより、解説を読むのが好きで、それもまた長居の原因なのですね。今回は「麗子像」で知られている岸田劉生の自画像キャプションの「制作中、妊娠中の妻のうめき声に我慢ならず、静かにするようかんしゃくを起こした」という旨のエピソード記述に仰天しました。今の時代じゃあり得ないでしょう。
今回は谷中安規の木版や素描に発見がありました。このシュールな作風はなんだろう……。
企画展のほうも少し。熊谷守一といえば猫の絵でしょうか。岐阜県美術館や熊谷守一つけち記念館、豊島区の熊谷守一美術館などから集められた200点以上もの作品が展示されています。
いちばん驚いたのが初期の陰影に富んだ、というよりも暗い作風から、年を追うごとに明るい作風になっていく変化。初期は写実的だったのに、どんどん抽象画のようになっていく。明らかに単純化されているのですが、それがなんともいえない味わいを出しています。猫の絵などは典型で、メカメカしているような絵柄が不思議かつ楽しい。この変化をもう少しじっくり楽しみたい。関連の美術館を巡ってみようかと思います。