代官山蔦屋書店。『バー「サンボア」の百年』(白水社)の刊行を記念したトークイベントに行ってきました。著者・新谷尚人さん&松尾貴史さんの対談形式のトークは、サンボアの歴史から昨今の飲み文化継承まで、裏話と秘話満載でした。
2003年に銀座サンボア、2011年に浅草サンボアを開いた新谷さん。大学在学中に南サンボアにアルバイトで入って以来サンボアを支える、生え抜きバーテンダーです。サンボア発祥の地である神戸出身で古くからの常連である松尾貴史さんが、新谷さんとトークを展開しました。
サンボア=SAMBOAという名は、ミカン科の常緑木であるザボンであり、北原白秋の編んだ文芸誌「ザムボア(朱欒)」に由来している説、谷崎潤一郎が名付けた説(前身の岡西ミルクホールの常連だったそう)など諸説あるが、裏付けがないという話からスタート。なにしろ100年前の話ですから、まぁそうなりますよね。
元は「ソーダ割り」として普通に注文されていたけど、サントリーが角瓶でリバイバルさせたことで起きた「ハイボール」ブーム。よく言われる神戸式ハイボールは、もともとは「コウベハイボール」という店のこと(今はない)。お客さんから作ってほしいと頼まれることもあるけど、「作っていいものやら」と新谷さんは複雑な面持ち。
そこから酔客の話へ。「酒は狂い水というけど、酒を飲んだときこそ人間性が出る」と松尾さん。会社しかり家庭しかり。酒でいろいろやらかしてしまうのは、なるほど確かにそうかもね。
「師匠からは客に話しかけるなと言われたものです。お酒のおかわりも勧めない。今はその接し方ではサービスが悪いと言われる」という新谷さんの話に、うーむと考えされられます。
酒場には酒場の、そして店ならではの流儀がある。同じようなサービスを求める客は、それこそシステマティックな店に行けばいい。ずいぶんと了見の狭い、スラックのないご時世よのう。
父親がバーテンダーだったという松尾さんの「バーにはノスタルジー、郷愁、憧憬のようなものがある。日常的に出入りできるのがうれしいんです。たがらサンボアには”インスタ映え”とか要らない」という話にも共感。
松尾さん曰く「個人主義が集まって、その場が揉めない」のがバーであり、訪れる人の理由もバックボーンも全く違う。それがまた、たまらないんですよね。好き勝手に見えて秩序がある。
そして有り体に言えば、日常に寄り添いながら簡単に非日常に接続できるのがバーの良さでもあります。
90分にも及んだトーク。お酒の達人たる二人の話に、柄にもなく酒場論を考えさせられた帰り道でした。