午前1時過ぎ。たまたま乗ったタクシーで、こんなことがありました。60後半から70代と思しき白髪の運転手さん、僕を乗せるなり。
「されるもされないも、お客様のご自由ですが……。安全のためシートベルトを締めてくださいますようお願いします」
と。こう口頭で言われました。「口頭で」ってのがポイントです。決して強制するでもなく、諭すわけでもなく。あくまで淡々と。あまりに意外なことにびっくりしました。
今の東京のタクシー、乗車すると女性の機械的な音声でシートベルトの着用を促されます。東京以外のタクシーもそうなんでしょうか。
音声って、その声質に聞き慣れてしまうと聞き流してしまいません? 駅のアナウンスとか、コンビニの店内放送とか。
タクシーで運転手さんに話しかけられるといったら、普通は世間話の類でしょ。シートベルトについて言われたのは初めてです。
そらぁ直に言われたら、素直に聞きますよね(言われなくてもシートベルトはしなきゃいけません)。慌てていそいそとカチャリ。
タクシードライバー歴が長いのか、それとも転職組で案外二種免許を取得したばかりか。
分かるはずもありませんが、あの白髪の運転手さん、なんともいえない説得力がありました。
車という密室で、どこの馬の骨ともわからない客に口頭で伝えるって、勇気が要りますよね。タチの悪い客だったら、下手すると暴言・暴力沙汰です。
僕は普段タクシーはあんまり使いませんが、こういう見事な運転手さんもいらっしゃるんですね。
そういえば。徒歩でがんばって帰宅するつもりで外堀通りを歩いてたら、スーッと横づけされ、つられるように乗ってしまった。
よくあるイヤラシイ乗せ方じゃないよ、ほんとうに自然な横づけだったんです。
うん、やっぱあの運転手さん、只者ではない。会社近くから自宅までの約5分、不思議な体験でした。