米国ブラウン・フォーマン社を一言でいえば、「蒸留酒製造大手」ということになるのでしょう。テネシーの「ジャックダニエル」、バーボンの「ウッドフォードリザーブ」「オールドフォレスター」などがパッと出てきます。製樽工場=クーパレッジを所有していることでも有名です。
ブラウン・フォーマン社は、スコッチの3ブランド(ベンリアック、グレンドロナック、グレングラッサ)を買収し、稼働を停止していた蒸留所の再興をはかっています。日本市場ではアサヒビールが販売する、この3つのテイスティングセミナーに参加してきました。
セミナーはウイスキー文化研究所の土屋守代表と、スチュアート・ブキャナンさん(ブラウン・フォーマン社のスコッチグローバルアンバサダー)のトークセッション形式。ベンリアックの製造責任者でもあり、3蒸溜所の伝道師として世界中の試飲会・イベントに出ているスチュアートさん。曰く「今年2018年1月から現在まで自宅で就寝した日数は22日だけ」。ベッドよりも飛行機の中で夜を明かすことが多いんだとか。
テイスティングは5アイテム。
ベンリアック10年
ベンリアック蒸留所は全体の5%以下をフロアモルティングで行っているそう。「コスト高だが、技術を失いたくない。蒸留所の持ち主がブラウンフォーマンになった今も、これは継続する」とスチュアートさん。
このベンリアック10年は「クラシックなノンピート」という位置づけ。リンゴ、アプリコットのフルーティさ、バニラやキャラメルの香味。バーボン樽のほか、アメリカンホワイトオークで熟成させた原酒をブレンドしているため、スチームジンジャーの変化が加わり、バランスを整えるためシェリー樽で酒整(バランス)を調節するといいます。
この辺りはマスターブレンダーのレイチェル・バリーさんによるもので、レイチェルさんはグレンモーレンジやボウモアに在籍した経歴も生かした手腕が発揮されそうですね。
ベンリアック12年 シェリーウッド(日本未発売)
売れすぎのため、約3年前に休売となったもの。供給が見通せることになったため、2カ月前(2018年8月ということになる)にイギリスで再発売。日本でも発売が検討されているそうです。
PXとオロロソ、バーボンの3つの樽を合わせたもの。桃やプラムなどのストーンフルーツ、タバコ、皮革など、硬軟問わず味わいが複雑な仕上がりなのだそう。
グレングラッサ トルファ
「トルファ」とは北欧の言葉でピートのこと。その名の通りフェノール値30ppmのヘヴィなピーテッド麦芽を使用しているそうで、内陸部グラスゴーにあるポートゴードン製麦所のもの。
メインのバーボン樽のほか、シェリー樽の原酒も少し使用。ものすごくヘヴィな印象なのに、「ウイスキーのピート感の苦手な人も楽しめる」というのがユニークですね。
香味はバーリーシュガー(大麦の糖分)、ハチミツなど。熟成年数は6年~6年半。ひじょうにスムースで薪木のような感触も。
グレンドロナック12年
スチュアートさんが「ダブルエスプレッソのようなウイスキーを目指す」と語ったのが、このドロナック12年。辛口オロロソと超甘口PXシェリーを熟成した、フルマチュアードのシェリー樽を使用した、より豊かで芳醇、パワフルなウイスキーという解説も納得でした。
グレンドロナック15年(日本未発売)
土屋代表によれば、このドロナック15年は「コレクターの多い商品で、BARのバックバーはこれがないと完成しない」というほどのマストアイテムだったそう(今ではマッカランがそれに該当しますかね)。
ブレンダーのレイチェルさんが最も注力しているウイスキーだそうですが、製造法は今も昔も全く変わっていないとスチュアートさんが胸を張っていたのが印象的でした。
さらに、後半はフリーテイスティングも
・グレンドロナック18年
・グレンドロナック21年
・ベンリアック キュオリアシタス10年
・グレングラッサ リバイバル(飲食店限定)
・グレングラッサ エボリューション(飲食店限定)
などが追加アイテムとして出されました。僕は連日の飲み疲れで、すべては制覇できず、ドロナック18年とリアックのキュオリアシタス10年のみで降参。会場となった六本木「THE PUBLIC SIX」のアレンジによる、それぞれに合わせたフィンガーフードも付いて、おなかも満足。ありがとうございました。
それにしても。樽の供給が自社で可能って、相当な強みですね。ウイスキーブームで不足しているのは何も原酒だけでなく、樽も同様。原酒の供給のメドが立ったうえでのドロナック15年とベンリアック12年の復活は、特にシェリー樽好きの呑助にはグッドニュース。今後のリリースから目が離せません。