「NHK大河ドラマ史上最低視聴率記録を更新」などというネガティブな報道ばかり強調されている『いだてん』ですが、ほんとうに素晴らしい。数字的な評価でみれば散々ですが、それは進取の裏返し。今まで大河を見ていた人が付いていけない=枠にはまらない面白さ、というのは褒めすぎですか。
今は低評価でも10年後あるいはその先、大河ドラマを振り返ったとき、エポックメイキングな1作だったと語り継がれるんじゃないかなと思うのです。
その主役は脚本です。宮藤官九郎のドラマツルギー。時系列を無視した構成、狂言回しに落語を使う味付け、宮藤ファミリー大半のキャストの楽しさなど。
従来の保守的な大河ドラマファンがそっぽを向くのは、大河らしさが皆無であるという点かと。大河ドラマ=歴史ドラマですから、史実をもとにしたフィクションであることは言うまでもないのですが。おそらく旧来の大河ファンは「さも史実にあったかのごとく、描いてほしい」ということなのでしょう。
奔放な宮藤脚本を、NHKのディレクターや大根仁さんは演劇的に、現代劇的に演出しています。宮藤脚本をこれまでの正統な手法で改訂し、演出も控えめにしたら、面白みは半減以下になっちゃう。
急激に花開き、時代が追い付いていかない日本体育の黎明期。その渦中にあった人の成長と葛藤。このはざまに「噺」を入れることで、緩急自在にして退屈させない物語になっています。
キャストは誰もが当たり役といえるくらいハマっているのですが、特に森山未來という稀有な俳優を推したい。森山さんが金原亭馬生と古今亭志ん朝の2役で、ほぼ同時に本編に登場したときは仰天しました。顔貌が似ていなくても、ちゃんとそれらしく見える不思議。志ん朝さんを誰が演じるのかやきもきしていましたが、これならナットク。
こういうトリッキーな描き方が、オールドファンを置いてきぼりにする理由でしょう。もはや宮藤官九郎とNHKのスタッフは、今も付いてきている『いだてん』の視聴者にのみに向けてメーターを振り切ったといっていいかもしれません。
これから東京五輪が描かれる第2部に突入します。お楽しみはこれからですな。