この日の締めくくりは、特級表記時代の1980年代に流通していたと思われるスプリングバンクです。楕円形の丸みを帯びたボトルデザインも愛らしいシングルモルトです。現在のスプリングバンクのイメージとは異なる滑らかな舌触りで、8年物とは到底思えません。経年で空気に触れ、瓶熟が進んだことも影響しているのでしょうか。
スプリングバンク8年 特級 43%
- 香り…主張あり。ひたすらモルティ。植物園の温室にいるような花やグリーン、メイプルパイ。
- 味…アタック強いがひじょうに甘い。キャラメル、ティラミス。後半に塩気を伴いウスターソース。
- 総評…優しい味わいそのままに、キャンベルタウンの特徴とよく言われるプリニー(塩辛さ)さはほとんど感じず。ビロードようなテクスチャーが始終続く。
@お酒の美術館 神田店
かつて、20世紀初頭のころは約30もの蒸留所があったそうですが、今やスプリングバンクとグレンガイル、再興の狼煙を上げたグレンスコシアの3つのみ。衰退してしまったのは、米国の禁酒法時代にタチの悪いウイスキーを輸出したのが一因ともいわれているようです。
その逆風の中でどっこい生き残ったスプリングバンクは、それだけでも大したこと。もっともこんなに雅なウイスキーを造れる蒸留所でも一時操業停止時期があったそうですから、歴史・伝統とは言うは易しだとつくづく思います。
ざっくりオールドを4杯いただきました。共通するのは年輪。「あぁ昔のウイスキー」だと判る濃さ、まとわりつくような舌触りと長い余韻、少しだけ判じられるヒネた余香。それでいてボトルごとに特徴が異なるんですから。これを「沼」と呼ばずしてどう呼ぶんでしょう。ハマるとほんとうに危険ですね。
翻って今の時代。多くのウイスキー愛好家を世界各地で生んでいるのは、それこそ特級時代以前と異なり、スムースな味わいです。より多くのファンを生むため、よりビッグビジネスに育てるため。そうやって老若男女に向けて造ると、今の時代のようなスッキリと、よりソフィスティケートされたウイスキーが旺盛になるのではないでしょうか。
新旧時代の良し悪しを論ずるつもりはなく、どちらの時代も、時代に合ったウイスキーが造られるということ。これはモルトだろうとブレンドだろうと、日本酒だろうとワインだろうと、ほかのあらゆるプロダクトに言えることです。何度も言いますが、今飲める酒をライブで楽しみつつ、オールドに出会ったら慈しみたいと思うのです。