週末、買い物を兼ねて目白駅周辺を散歩しました。駅を降りて西側、左へ歩を進めると新宿区下落合になります。活気ある目白通りから路地を入ると、そこは整然とした閑静な住宅街……というよりも邸宅が立ち並ぶ、お屋敷の町といった風情に。その一角に「新宿区立中村彜アトリエ記念館」があります。
中村彜(1887~1924)は明治・大正期の画家です。17歳のころ、肺結核に襲われ軍人の道をあきらめて洋画家に。1911年(明治44年)、才能を見込んだ新宿中村屋の相馬愛蔵・黒光夫妻の厚意で中村屋裏のアトリエに転居したものの、相馬夫妻の長女・俊子との恋愛に反対され、1916年(大正5年)に下落合にアトリエを建てて転居します。
この記念館は、彜の画友などいくつかの所有者の変遷を経て、大正5年の建築当初の姿に復元したものだそう。病に侵されて外出もままならなかった彜は、このアトリエで後年「カルピスの包みの紙のある静物」「頭蓋骨を持てる自画像」などの作品を描きました。
アトリエはこじんまりとしながらも天井が高く、天窓の採光もまばゆい開放的な空間。イーゼルや家具(実物は茨城県近代美術館)などの造作が画家の往時をしのばせます。住宅街の真ん中にあるのですから、彜が生きていた当時はもっと静謐な空間だったに違いありません。
記念館の管理棟でも、彜の作品のレプリカ(高精度の写真パネル)が飾られています。長女・俊子を描いた作品なども含め、実作品は新宿中村屋サロン美術館や茨城県近代美術館で見ることが可能。在りし日の彜さんの姿に思いを馳せつつ、こういう空間が自宅にもほしいと思った浅ましさ。
ともかくすてきな空間です。入場無料。目白あたりを散策の際は立ち寄ってみてはいかがでしょう。