こまつ座&ホリプロによる芝居『組曲虐殺』の東京公演を観てきました(2019年10月26日、天王洲銀河劇場)。故・井上ひさしさんの戯曲を栗山民也さんが演出。主演は井上芳雄さんです。
『蟹工船』などで知られるプロレタリア作家・小林多喜二の物語というだけで、だいたい内容は想像でき、相応に気構えは出来ていたのですが……。多喜二の拷問のような悲惨な描写はありませんが、いやぁ重かった。今回の再々演で初見でしたが、リピートするにはだいぶエネルギーが要ります。
青年期からその著作が特高に目を付けられ、なんとか地下活動していく多喜二の物語が、妻(神野三鈴が好演!)や恋人(上白石萌音)、実姉(高畑淳子)、特高刑事(山本龍二、土屋佑壱)との交流で綴られます。小曾根真さんのピアノによる音楽劇(ミュージカルではない)の体裁をとって、心象風景を切々と語る演出に打たれます。
多喜二を演じる井上さん。独房に入れられ、差し入れの鏡で自らの顔を見ながら、正気を保とうという場面。あの演出は、2013年の帝劇ミュージカル『二都物語』のラストシーンを思い出してしまいました。
『二都物語』は崇高な、究極の自己犠牲の物語と思うのですが、井上さんが当時演じた弁護士シドニー・カートンと今回の多喜二は、自己を犠牲にして何かを救うという意味で、類似するものを感じました。『組曲虐殺』という演題ですが、虐殺されたのは多喜二の魂で、身を挺して(命と引き換えに)組曲を、ひいてはプロレタリア文学を救ったのではないのかな、と。
井上さんの舞台はごくわずかにしか観ていませんが、『夜と霧』のリーディングといい、ジョージ・オーウェルの『1984』(2018年)といい、文学路線を地で行ける数少ないアーティストなのでは。ルックスだけでなく、歌唱やセリフ口調で説得力を持たせるとなると、この人をおいてなかなか競合相手がいない。ちょっとズルいなってくらい、強いですよね。