東京・よみうり大手町ホールで開催の、春風亭一之輔さん独演会『2019落語一之輔七夜』千秋楽(2019年10月27日)に伺いました。7夜連続公演で各日3演目ずつ、計21演目も披露するわけですから、すごいですよね。昨年(五夜)複数回聴けたのはラッキーでしたが、今年は楽日のみ。個人的にはそれでもう十分です。
粗忽を通り越してADHD的な亭主が大暴れする一之輔さん流の『粗忽の釘』から始まり、お次は一転『芝浜』へ。一之輔さんは、噺を途中でいったん区切って独自の見解(=だらしない主人公・魚屋の熊五郎さんが、改心を誓って断酒する行為にダメ出し)を述べます。まぁ『芝浜』は単純にいい噺と思いますが、ぼく個人も呑助なので一之輔さんの解釈は面白いし、共感できます。どんなに倹約生活を送ろうと、酒はやめないと自分でわかるもん。
休憩を挟んで、最後に出してきたのは『意地くらべ』。昨年の同会でネタ出ししたうちのひとつ。人情噺で締めないのは、いかにも一之輔さんらしい。ですが、この『意地くらべ』は一之輔さんにとっては立派な人情噺なのかもしれません。
隠居さんから借りた金を返すため、大家に借金する八五郎さん。それを返す、いや今返さないでいいと押し戻し合う隠居と大家=頑固者。登場人物にイヤな奴が皆無どころが、皆すがすがしいくらい気風がいいんだから。
この演目で一之輔さんは、落語の世界の登場人物が「こっちに来なよと言っていて、その仲間に入れてもらう」という旨のことを話したのを聴いて、この人の落語がなぜ面白いのか、片鱗をチラ見したような気が……。同時に、観客との距離感について「こっちの輪に入ってもらう」と言った志ん朝さんの名言を思い出しもしました。登場人物たちと、その場で聴いている客と、世界を創り上げるという意味で両者共通の気がするんです。
来年2020年は10月25日~10月27日で「三昼夜」だそうです。つまり1日2公演、計6公演ですね。どんなカタチになるか未定だそうですが、これまでの独演会の趣向と異なるかもしれませんね。