小布施再訪の大きな目的のひとつは、北斎館(入館料大人1,000円、高校生500円、小中学生300円)です。浮世絵師・葛飾北斎を知ったきっかけは、高橋克彦さんの推理小説『北斎殺人事件』(講談社文庫)で、ここに描かれた北斎隠密説(北斎が反幕・倒幕の危険人物の疑いのある高井鴻山を監視するため、小布施に出向いたという大胆な仮説)がスリリングで、ロマンをかき立てたんですよね。
22年前、その影響で小布施に行き、北斎館で実際に北斎の浮世絵や肉筆画を見て、その大胆でド派手、パンクでファンキーな筆使いと色使いにすっかりノックアウトされてしまったのです。
そう、北斎といえば浮世絵の強い印象がありますが、ここ北斎館は「画狂人・葛飾北斎の肉筆画美術館」というタグラインを設定しています。何百何千も出回った刷り物である版画と異なり、肉筆画は北斎が残した唯一無二の1点もの。肉筆画は、展示後半(第二展示室、第三展示室)でガラスケース越しに見ることができます。
そんなわけで今回2度目の訪問。あいにく、いちばん楽しみにしていた「富士越龍図」という北斎遺作のドラマティックな肉筆画が、なんと東京・すみだ北斎美術館に貸出中とのことでズッコケましたが(よりによって自分の住んでいる東京か)。それでも1点ものの精緻さ、鮮やかさにクギ付けになりました。
開催されていた企画展「北斎vs北斎」(~2020年1月19日)は、北斎の代表作である「冨嶽三十六景」と「富嶽百景」を見比べるというもの。前者のうち24図は2020年以降に発給されるパスポート(中面)に使用され、2024年度には新紙幣のデザインに採用されることから、ますます北斎人気が沸騰しそうです。
1830年(天保元年)から制作されたといわれる「冨嶽三十六景」ですが、北斎がその表現を突き詰めるべく新たに版本3冊を創作。それが、1834年(天保5年)の「富嶽百景」と考えられているそう。
驚いたことに、後に制作された「富嶽百景」のほうが彩色は控えめで、多色鮮麗な「冨嶽三十六景」と比べるとぱっと見は控えめ。ですが、よぉく目を凝らすと「富嶽百景」の描き込みがより精緻になっているのが分かります。構図を変え、彩色をシンプルにする発想の転換と同時に、限界まで表現を追求した北斎の執念を垣間見た思いです。
しかしやはり、この美術館は北斎の肉筆画でしょう。画狂と自らを称しただけに、その奔放な表現に見ているコチラもテンションが上がるんです。